公開日
2019/01/07

犬のワクチン接種とワクチンアレルギーについて

近年、犬の混合ワクチンが毎年ではなく3年に1回でよいという情報が流れています。その真偽について、ワクチン接種の目的、予防できる病気の種類、接種する適切な間隔について解説します。また、ワクチンアレルギーを発症してしまった時の対処法や、ワクチンアレルギーを持つ犬のワクチン接種について解説します。

ワクチンとは

特定の病原体を元に作られた無毒化(弱毒化)された抗原を体に投与することで、体内でその病原体に対する抗体産生を促し、免疫を獲得することで、実際に病原体が体に入ってきた際に、感染症の予防や症状を軽くすることを目的とするものです。

ワクチン接種の目的

ワクチン接種の目的はワクチン接種を受けた個体の予防だけではありません。
多くの個体がワクチン接種を受けることで免疫を獲得していると、集団の中に感染個体が出ても感染が拡がらず、流行を阻止することが出来ます。これを集団免疫と言います。
この集団免疫によって大流行を防ぎ、病気などでワクチン接種を受けられない個体を守ることにもつながります。
現在、多くの先進国ではワクチンで予防するような主要な感染症はまれにしか起こらないと考えられています。しかし、そのような国でも地理的に限られた感染地域は残っており、感染症の散発的な流行は起こり得ます。発展途上国では、かつての先進国と同様に日常的に認められ、感染症が犬の主な死因となっています。
感染症の流行を防ぐには、より多くの個体がワクチン接種を行うことが重要なのです。

ワクチン接種による有害反応

上記の理由により、我々獣医師は多くの犬にワクチン接種を勧める使命がありますが、ワクチン接種には有害反応があることもよく理解しておかなくてはなりません。
犬の混合ワクチンには5種や7種、9種などいくつかの種類があり、数字が大きい方が予防できる感染症の種類が多くなるというメリットがありますが、一般的に種類が多くなればなるほど有害反応が起こる可能性は高くなると考えられています。そのため、一概に5種より7種、7種より9種が良いというわけではありません。飼い犬にとって本当に必要な種類を選んで接種をすることが必要です。

ワクチンによる有害反応は、消化器症状(下痢、嘔吐、食欲不振)や、アレルギー・蕁麻疹症状(顔面浮腫、蕁麻疹、かゆみ)、アナフィラキシーショック、注射部位の疼痛などがあります。
アナフィラキシーショックやアレルギー反応の原因として、ワクチンに混入する蛋白質(ウイルス培養工程で使用する牛などの微量な血清アルブミン)が主原因と考えられています。そのため、ワクチン製造業者はワクチンに含まれる蛋白質の減量について改善するよう日々努めています。

当院で使用している5種および7種ワクチンの有害事象発生率は、製造業者が収集し開示している情報によると2017年において0.013~0.014%と報告されています。(参考:2017年ノビバックワクチン副反応情報)
これは1万頭に1~2頭という計算になりますが、報告されてない症例もあると思いますので、実際にはもう少し多いと考えられます。ワクチネーションガイドラインに記載されている2005年の米国での報告では、非常に軽微な反応も含めると1万頭に38頭において3日以内の有害反応があったと記録されています。
また、ワクチン接種は免疫誘導によって、自己免疫疾患の遺伝的素因がある動物に対して、自己免疫応答を誘発し、自己免疫疾患の発生が認められることがあります。ただし、これはワクチン接種に限らず、感染症や薬剤の投与、様々な環境要因でも同様に起こり得ます。

ワクチネーションガイドラインについて

ここからは2015年に世界小動物獣医師会によって発表された最新のワクチネーションガイドラインに基づいて解説していきます。
ちなみに、このガイドラインの日本語訳はインターネット上に公開されているため、飼主様自身が直接確認することが出来ます。興味がある方は検索してみるとよいでしょう。

犬と猫のワクチネーションガイドライン

ワクチネーションガイドラインの背景

  1. 多くの感染症はワクチン接種の普及によって激減している。
  2. ワクチンの副作用(有害反応)、安全性への懸念。
  3. 年に1回の接種が本当に必要かという疑問。

これらの世論に対して、ワクチネーションガイドラインが作られています。

2015ワクチネーションガイドラインの基本理念

『すべての動物にコアワクチンを接種することを目指す。ノンコアワクチンは必要以上に接種するべきではない。』としています。
コアワクチン、ノンコアワクチンとは何でしょうか?

ワクチンの分類について

ワクチネーションガイドラインでは混合ワクチンに含まれるワクチンを3つのカテゴリーに分類しています。

1.コアワクチン

世界的に重要な感染症に対するものであり、その防御のために年齢やライフスタイルに関係なく世界中のすべての犬に、推奨された間隔で接種すべきもの。

  • 犬ジステンパーウイルス
  • 犬アデノウイルス(1型および2型)
  • 犬パルボウイルス

※日本では狂犬病も含まれます。狂犬病は2030年までに全世界から根絶することが目標とされています。多くの国で狂犬病ワクチンの接種は法的に義務付けられており、ペットの海外渡航の際にも必要です。

2.ノンコアワクチン

個々の犬の地理的要因やライフスタイルによる感染リスクに基づいてその使用が判断されるもの。

  • 犬レプトスピラ
  • パラインフルエンザウイルス
  • ボルデテラブロンキセプティカ
  • ライム病

3.非推奨

科学的根拠が乏しいとしてガイドランでは接種を推奨していないもの。
・コロナウイルス
※海外で発表されたガイドラインですので、日本において全て肯定してよいのかという意見もあります。

日本で販売されている混合ワクチンの種類

日本で販売されているワクチンの中で、コアワクチンを含む混合ワクチンには5種、6種、7種、8種、9種、10種などの種類があります。
コアワクチンである、ジステンパーウイルス、アデノウイルス1型および2型、パルボウイルスと、ノンコアワクチンであるパラインフルエンザワクチンが一緒になったものが5種です。
6種以上のものに関しては、5種をベースとして、ノンコアワクチンであるレプトスピラ(2~4株)、非推奨ワクチンであるコロナウイルスが追加されています。レプトスピラには株の違いがありワクチンの種類によって予防可能な菌株が異なります。

国内販売されているコアワクチンを含むワクチン製剤(2018年12月時点)

その他、レプトスピラやパルボウイルスの単独ワクチンや、パルボとジステンパーの2種ワクチンなども存在しますが、コアワクチンを全て含まないため今回は割愛します。
現時点で問題なのは、コアワクチンしか含まない3種(4種)ワクチンが国内に存在しないという点です。

近年になって、ワクチンは3年に1回でよいという情報を耳にしたことがある方もいらっしゃると思います。獣医さんには毎年打つように言われているのにどういうことかと疑問に思っているかと思います。その点について解説していきたいと思います。

ワクチン接種と抗体価

ワクチネーションによって、感染症を予防できる状態にあるか判断できる検査が血中抗体価の検査です。血液中の抗体価がある一定以上あがっていれば、感染症を防ぐまたは症状を軽減することが出来ると考えられています。この抗体価は、時間とともに低下していきますが、コアワクチンでは適切なワクチネーションによって一度有効な数値まで上がると、この抗体価が3年以上持続することがわかっています。
これが、近年ワクチン接種が3年に1回でよいといわれている理由です。(動物病院で血中抗体価検査を受けることも可能です。)

しかし、コアワクチンのみの混合ワクチンは現在国内では販売されていません。また、ノンコアワクチンは適切なワクチネーションを行ったとしても、有効な抗体価は一年しか持ちません。そのためノンコアワクチンの予防には1年に1回のワクチン接種が必要です。
これが動物病院で毎年ワクチン接種をすすめられる理由の一つです。

ノンコアワクチンは必要か?

パラインフルエンザは犬の風邪「ケンネルコフ」の原因となるウイルスのひとつです。呼吸器症状を示し、くしゃみや鼻水など犬同士で飛沫感染しますので、多頭飼いや他の犬との接触で感染する可能性があります。一般的に単独感染では症状は軽いとされていますが、他のウイルスや細菌などの病原体との混合感染により重症化します。
レプトスピラはネズミなどの野生動物が主な感染源となる人獣共通感染症です。人をはじめとする多くの哺乳類が感染する可能性があります。レプトスピラ菌に汚染された土壌や水を介して感染します。ネズミが生息する居住区域や、河川などにレジャーに行く際には注意が必要です。また洪水などが起こった際にも流行すると言われています。レプトスピラに感染しても症状が出ず不顕性感染で終わることも少なくありませんが、発症し重症化すると死に至ることもあります。

どうやって種類と頻度を選べばよいか

  • 多頭飼いしている
  • 散歩で他の犬に遭遇する
  • ドックランを利用する
  • ペットホテルを利用する
  • 海、山、川などにレジャーに連れて行く
  • ネズミの生息が多い地域か
  • 感染症の発生の多い地域か

上記のいずれかの項目に該当する場合には、パラインフルエンザやレプトスピラ予防のため、獣医師と相談し5種~10種のいずれかを年に1回の接種を検討するとよいでしょう。

逆に、基本室内飼いで他の犬との接触がない犬では、3年に1回の接種を検討するとよいということになります。(※コアワクチンのみのワクチンが国内にないため、5種ワクチンを接種し、パラインフルエンザは捨てワクチンとなります。)
また、ワクチンアレルギーなどの有害反応が出てしまった犬では、血中抗体価検査を行うことで抗体価の維持が確認できれば3年以上接種間隔を空けることも可能です。

子犬の時にワクチンは何回打つのが正解か?

子犬のときには3回、4回など複数回ワクチン接種を行うのが一般的ですが、実は、正解はありません。1回目のワクチン接種時期や、感染症のリスクによって異なります。動物病院ごとに接種開始週齢や地域の感染症発生状況を考慮して決定していますので、かかりつけの動物病院に確認してみましょう。

ワクチンアレルギーが起こった時の対処法

前述したとおり、ワクチンによる有害反応には、消化器症状(下痢、嘔吐、食欲不振)や、アレルギー・蕁麻疹症状(顔面浮腫、蕁麻疹、かゆみ)、アナフィラキシーショック、注射部位の疼痛などの症状があります。
アレルギーやアナフィラキシーなどの重篤な症状は数分から数時間以内に発症し、進行性に悪化します。接種から症状発症までの時間が短ければ短いほど、重症化し致命的な原因になる可能性が高くなるため、接種直後はよく犬の様子を観察してあげてください。
何かおかしなことがあればすぐに動物病院に連絡し向かうようにしましょう。アナフィラキシーショック、顔面の浮腫、蕁麻疹などには迅速に適切な処置が必要です。
接種から12時間以上経過して出てくる遅延型のアレルギー反応もあります。急性のものに比べると重症化することは多くありませんが、この場合でも必ず動物病院に連絡をしましょう。
ワクチンアレルギーを起こしたことない犬でも、体質や体調の変化によってある年から突然ワクチンアレルギーを発症することもあります。ワクチンを接種する際にはなるべく長く様子が見れるように午前中に接種し、体調の良い日に接種をするように心がけましょう。

一度ワクチンアレルギーが起こってしまった犬のその後のワクチン接種について

前述したとおり、ワクチンアレルギーの主な原因はワクチン製剤中に含まれる蛋白質です。
ワクチンの種類を7種から5種にするなど種類を減らしたり、ワクチン製剤を変えることでアレルギーが起こらなくなることがあります。
また、ワクチンを接種する際に事前にステロイドを投与することでワクチンアレルギーの発症を抑えることが出来ます。
一度アレルギーを起こした症例では、接種するワクチンの種類をよく吟味し、コアワクチンであれば血中抗体価検査を行うことで、接種の回数をなるべく減らすべきだと思います。

ステロイドを投与してからワクチン接種をしても効果があるか?

ステロイドを接種前またはワクチン接種と同時に投与しても、ワクチンによる抗体産生の著しい抑制はないことが示唆されています。

まとめ

混合ワクチンには種類がありますが、地域によって最適なワクチンは異なります。また、散歩やドックラン、ペットホテルなど他の犬に接触はあるか、海山川などレジャーに行くかなど、生活環境によっても異なります。かかりつけの動物病院の獣医師とよく相談して、何種ワクチンをどの間隔で接種するか決定するとよいでしょう。

参考:
犬と猫のワクチネーションガイドライン(WSAVAワクチネーションガイドライングループ)
2017年ノビバックワクチン副反応情報