【獣医師コラム】もし、犬に噛まれた時に考えて欲しいこと

救急・防災

犬は怒りや恐怖、興奮など、さまざまな感情の表現として「噛む」という動作を行うことがあります。愛犬の感情はコミュニケーションが深くなるにつれて以心伝心でわかるようになるといわれていますが、散歩道やドッグランなどで知らないワンちゃんと触れ合っているときに噛みつかれたり、噛みつかれそうになってしまったことはありませんか?

私も獣医師という肩書きで生活をしていると「ワンちゃんに噛まれたけどどうすればいい?」という相談を受けることがよくあります。今回は、万が一「犬に噛まれた」というアクシデントに見舞われてしまったときに考えて欲しいことついてお話ししたいと思います。

犬に噛まれた時、犬から感染する病気がある?

犬に噛まれた時、犬から感染する病気がある?

最初から怖い話をしてしまいますが、犬に噛まれることで感染する可能性のある人の病気はいくつかあり、なかには対処をしないと非常に危険なものもあります。実際にどのような病気があるのか、どのように予防や対処を行えばよいのか、一緒に勉強をしていきましょう。

犬から感染する細菌と感染症

犬から感染する細菌と感染症

「犬に噛まれると病気に感染する」という書き方をしてしまうととても怖いことに感じてしまうかもしれませんが、どのような動物でも口の中にはさまざまな菌が暮らしていて、それが傷口に移ることで感染症へとつながってしまいます。

身近な実体験でいえば、私も食事中に口の中をガリッ!と噛んで、その後口内炎になってしまったことがありますが、実はこの口内炎というのも傷に口内の細菌が感染した病気なのです。

犬に噛まれたときに注意すべき病気も、口内炎のように犬の口内に常に存在する細菌や環境にいる細菌が原因になるため、怖がりすぎることなく正しい予防と対処を行いましょう。

犬に噛まれたときに特に注意が必要な感染症

実際に犬に噛まれたときの「噛み傷」、もしくは引っ掻かれた際の「引っ掻き傷」を介して人が細菌に感染する病気のなかで、特に注意が必要なものとしては、

パスツレラ症

カプノサイトファーガ感染症

破傷風

があります。

このうち、パスツレラ症とカプノサイトファーガ感染症は、犬の口腔内の常在細菌(正常なときでも常に存在する細菌)が原因で、犬にとってはほとんど害のない菌ですが、人間に感染することで病気を引き起こします。

破傷風は、犬の体に存在する菌ではなく、土などの環境中に存在する菌が噛み傷を介して感染することで発症する病気です。これらの細菌感染症は、細菌が体内に入らないようにすることで予防ができます。

万が一、犬に噛まれてしまったときの対処法

もし、犬に噛まれてしまったときの対処としては、まず最初に傷口を清浄な水で洗い、消毒を行うことが感染症の予防には効果的です。

今回、危険な感染症を3つ紹介しましたが、どの病気も日本での発生は多くなく、傷口の消毒と清浄な管理を行えば十分に感染予防ができます。

もし、犬に噛まれて傷ができたとしても、迅速に洗浄と消毒を行えば救急病院に行ったり、過度に恐怖を抱く必要はないケースがほとんどです。しかし、基礎疾患をお持ちの方や幼いお子さん、高齢者などの場合は早急に医師に相談をすることをおすすめします。

また、深い傷である場合や圧迫しても出血が止まらない場合、ズキズキと強い痛みがある場合、野犬に噛まれた場合などではできるだけ早く病院を受診するか、都道府県などの医療機関案内サービスを利用するとよいでしょう。

犬から感染するウイルス「狂犬病」

犬から感染するウイルス「狂犬病」

犬に噛まれることで感染するウイルスとしては、狂犬病ウイルスが最も有名です。「狂犬病」は、ほぼ世界中で発生している感染症で、毎年5万人近くが亡くなっているともいわれています。

愛犬家のみなさんは毎年、春頃になると「狂犬病予防注射」のお知らせが市町村から届くのでよく耳にする病気かと思いますが、狂犬病という病気自体は日本ではあまり話題になることはありません。

この理由は、日本が世界でも稀な狂犬病の発生のない「清浄国」だからです。

日本では1957年の発生以来、狂犬病の国内での感染は人でも動物でもなく、検疫や犬のワクチン接種に努めたおかげで清浄な状態を維持できています。(※海外からの帰国者で、日本で発症した例はあります。)

このため、もし国内で犬や野生動物に噛まれることがあっても、狂犬病の心配をする必要はないというのが現状です。

安全な愛犬との生活のために、私たちにできること

安全な愛犬との生活のために、私たちにできること

今回は、犬に噛まれることで感染する感染症をピックアップして紹介しました。これらの病気は、洗浄や消毒のような処置で予防が可能なものがほとんどで、多くは犬に噛まれたからといって大問題になるようなことはありません。

実際に動物病院でも獣医師や動物の看護に関わるスタッフたちは、ワンちゃんや猫ちゃんに噛まれることはよくありますが、傷口の洗浄と消毒を行った後に少し腫れたりすることはあっても、重大な病気になることはほとんど聞きません。

しかし、これが海外だったらどうでしょう。

日本といくつかの島国を除いて全世界では狂犬病が発生しているので、海外で狂犬病予防接種を行っていない犬に噛まれた場合は、3ヶ月間にわたって6回ものワクチン接種を行う必要がありますし、破傷風が多く発生している国であればそのワクチン接種も必要になります。

海外と比べてみると、愛犬と安全な生活を送ることができているのは、やはり日本では狂犬病の危険性が存在しないことは大きな要因ではないでしょうか。

これも愛犬家の皆さんが毎年しっかりと狂犬病予防注射の接種を行っているおかげといえますね。しかし、狂犬病予防注射の金銭的な負担や手間もあってか、近年ではその接種率の低下が問題視されています。

日本国内の狂犬病予防注射の接種率が低下している

国内では長らく狂犬病の発生(国内での感染)がない状態なので、「ワクチンを接種しなくても大丈夫だろう」と思っている飼い主さんが多いというのが現状で、確かに獣医師としても清浄国であるという環境から、体調の優れないワンちゃんには接種の延期を勧めることもあります。しかし、飼い犬への狂犬病予防注射は、狂犬病予防法に基づく飼い主の義務となっています。

日本では狂犬病をはじめとして、国内に存在しないさまざまな疫病が侵入しないように厳重な検疫体制を敷いていますが、2018年には養豚業に大きな打撃を与える豚熱が国内に侵入し、現在も広い地域で発生しています。また、同様に危険な感染症であるアフリカ豚熱も年間侵入確率が20%ほどであると予想されています。

こういったことからも、狂犬病ウイルスも同じように検疫をかいくぐって国内に侵入してしまう可能性は否めません。

実際に日本同様に狂犬病清浄国であった台湾でも、2013年に野生動物での狂犬病感染が確認されており、日本でも中国からのコンテナから野良猫が発見されたり、ロシアからの船舶に乗って検疫を受けていない犬が上陸をするといったケースもあります。

難しい話を長々としましたが、安全な環境というのは先人たちの努力の賜物であり、それを守るため、そして何より自分自身と大切な愛犬を守るために、ワクチンなどの予防についてはしっかりと危機感を持って取り組んでいきましょう。

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獣医師T

獣医師T

獣医師。大学在学中はウイルス学の研究をしながら犬の行動学(しつけ)に関する学生団体に参加し、卒業後は動物病院での勤務を経てペット関係の企業で勤務。ワンちゃんについて勉強したことやこれから勉強することを社会に役立てられるように邁進中。

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