家族として愛犬を迎えたら、人と暮らしやすい犬になるためにしつけを行いましょう。「犬のしつけ」とはどういうものなのか、どうしてしつけが必要なのかをご紹介します。
犬のしつけは、人間と暮らすためのルールを教えること
犬のしつけという言葉には、一般的には「おすわり」や「伏せ」「待て」「お散歩」が上手にできることを含めた幅広い意味で使われていますが、しつけという言葉は本来、礼儀や作法を教えることをいいます。
これは人間でも同じことですが、犬でいうと「人間と暮らしやすい家庭犬(ペット)になること」「犬が人間社会(飼い主さんの家族や他人、他の犬など)で平和に暮らしていくために必要なマナーや身のこなし方を習得させること」をいい、飼い主さんと犬が絆を作るためのものです。
犬をコントロールできるようになろう
言葉を話せない犬に対して「おすわり」などを教えること、指示に対して犬が反応することは、コミュニケーションを取るための共通言語を作るためにとても大切なことです。
例えば、「名前の認識」「トイレの場所で排泄できる」「噛まない(攻撃しない)」「無駄吠えをしない」「お散歩ができる」「いたずらをしない」「飼い主に意識が集中できる」「名前を呼ばれたら近くに来る」「拾い食いをしない」「ケージやハウスができる」「犬同士で喧嘩をしない」などで、犬をコントロールできる状態であることを目指します。
人間が犬に対してよくないと思う行動=「問題行動」が起きてからしつけをすることは、すでに悪い習慣が身についてしまっているため、修正するのに時間がかかる傾向があります。このため、悪い習慣を身につける前にしつけを行うと、大きな問題が起きることを未然に防ぐことができます。
しつけの理論や考え方には、たくさん種類があります。どの方法がよいかは、犬の性格や個性に合わせて行うとよいでしょう。
犬が人間の社会で暮らすために
犬に適切なしつけを行わなければ、決められたトイレの場所ではなく、好きな場所に排泄したり、無駄吠えをするなど本能のまま行動してしまい、犬が人の社会でストレスなく生活することができません。
犬の先祖は狼だといわれていますが、犬は元々群れで生活し、リーダーが群れを引っ張って行動する動物です。野生の世界では、独り立ちして生きていくためのさまざまなルールやマナー、狩の仕方など、生きていく術を親犬から教育され、兄弟達と一緒に学んで身につけていきます。
人の社会で生きていく犬は、飼い主が親犬の代わりになり、人と共に生きていくためのルールーやマナーなどを学ばせる必要があります。
しつけを上手に行うためには、まず飼い主が犬のリーダーになりましょう。しっかりとリーダーになることで、犬とのコミュニケーションがとれて絆が深まり、飼い主が犬をコントロールすることができます。
極端な話になりますが「犬と共に暮らす」のではなく、犬とコミュニケーションを全く取らず、餌だけを与えるだけの育て方をしたとしたら、犬は食事にだけ興味を持ち、本能を強く出し、犬のコントロールができない状態となり、飼い主さんと一緒に暮らすことは難しいものとなるでしょう。
犬に愛情を注いで人と犬との信頼関係を築き、人と暮らしやすい犬になるために「しつけ」をする必要があるのです。
子犬のしつけが大切な理由
子犬のしつけは、早い時期に始めることが大切だといわれています。その理由は人間と暮らしやすい家庭犬となるために社会化を行い、子犬に多くの経験をさせる必要があるからです。
社会化期と呼ばれる時期に、子犬がさまざまなことを体験し、学習することが、犬の性格に大きな影響を与えます。
子犬にとって社会化期はとても大切
生後約3週~14週頃までの期間を「社会化期」と呼び、子犬の性格の形成や成長にとって大切な時期を迎えます。子犬が母親や兄弟達、ブリーダーの元を離れて、新たな飼い主さんと出会う社会化期に、さまざまな経験をしたり、学習することで、人間と共に暮らしていく基礎を作ります。
一緒に暮らす家族や人間社会のルールを教えるために、この大切な社会化期に、たくさんの経験をさせてあげましょう。そのためには適切なワクチンプログラムを行い、なるべく早くお散歩デビューをさせてあげることが必要です。
ただし、怖がっている犬に無理をさせてはいけません。さまざまなことを経験・吸収する時期に、強い恐怖体験をすると、その犬がトラウマを抱えることがあるので注意しましょう。
子供が嫌いになったケース
例えば、お散歩デビューして間もない頃、ランドセルを背負った大勢の子供達に囲まれた時に、子犬が怯えて嫌がっているのにも関わらず、飼い主さんが多くの人に触ってもらって社会化をさせようと意気込み、子供達に愛犬を触らせたことで、小さな子どもや小学生、急に近づいて来る人を怖がるようになったというケースもあります。
しつけや社会化は大切ですが、無理はさせずに、できなくてもイライラしてはいけません。愛犬のペースに合わせてしつけを徐々に行っていくことが結果的によい方向につながることでしょう。
子犬のうちにしておきたい10のしつけ
子犬のうちにしつけを始めることで、さまざまなトラブルを防ぐことができます。しつけは怒鳴ったり厳しく怒ったり、体罰を使って犬に教えることではありません。上手にできたら褒められることで喜びを感じて、犬が飼い主の狙い通りの行動をするように導いてあげましょう。
※体罰を使ったしつけは、恐怖から結果的に人間不信や攻撃性を生む原因になるので行ってはいけません。
人間との主従関係をはっきりさせる
飼い主が主導でなく、犬の言う通り好き勝手にさせていると、自分の立場が上だと勘違いする可能性があります。リーダーは飼い主で、飼い主に従うということを学習させましょう。その方法としてできることの例を挙げていきます。
- 自分の名前をできるだけ早く認識させる
- 犬が一番お気に入りのおもちゃを使って一緒に遊び、最後に飼い主が取り上げて終わらせる(いつもおもちゃをたくさん室内に出しておかない)
- 散歩を行い、ストレスを発散させる
- 食事の時間は、基本的に人間が先に食べてから与えましょう。食事中に手を近づけると歯をむき出したり「ウー」と唸る場合は、人間の手からごはんを与えるようにし、人間の食べている食べ物は与えない
- 犬に自由を与え過ぎず、ケージにも入れるようにする
- 甘噛みをしたり、人間に前足をかける、飛びついてじゃれる遊びをやめさせる
- 犬をベタベタと1日中撫でない
- 人間の過ごすソファーやベッド、布団に犬を上げない
飼い主だけでなく誰でも体に触れることができるようにする
病気や怪我をした時に獣医師の診察を受けるためにも、普段から飼い主さんや家族はもちろん、誰でも体に触れることができることが、スムーズな治療や病気の早期発見にもつながります。
トリミングやペットホテルでも、自分のことを守るために体を触らせないように神経を使うことは、犬のストレスとなってしまうので、お散歩の後の足ふき、デンタルケア、ブラッシングの際に体に触れることは大切です。
- ごはんを手から与えて、その間に体に少しずつ触れるようにする
- 犬のマッサージをする時間を作り、コミュニケーションをとる
- 他の人におやつを与えてもらう
人間が好きで、噛んだり攻撃をしないこと
人間は安心できる存在であることを学習させ、人が好きでフレンドリーな犬になれるようにしましょう。人への恐怖や不安からくる、噛み付く、吠える、攻撃するといった犬の問題行動は、人間社会で暮らすには大きなトラブルとなります。子犬の甘噛みは習慣になる前にできるだけ早くやめさせましょう。
- 噛んでもよいおもちゃを使い、犬とのコミュニケーションを増やして一緒に遊ぶ
- 歯の抜け変わる時期(生後8ヶ月位まで)は、噛んでもよいものといけないものの区別を徹底する
- もし甘噛みの延長で人間の体を強く噛んだら、痛い!と高いトーンの大きな声を出して意思表示をして痛いことを伝える
- 手からごはんやおやつを与える
- 名前を呼ばれたら近くに来る、「おいで」をしてできたらおやつを与える
- 「おすわり」「待て」「伏せ」といった基本的なトレーニングを継続して行う
ケージやハウスができること(お留守番ができること)
犬にとってケージやサークルが安全な場所で、落ち着いて休めるスペースであると学習することが大切です。ケージに入れるようになることで、お留守番ができるようになります。
- 子犬を迎えた初日は、子犬や母犬が使っていたニオイのついたタオルなどをもらってきて、ケージの中に入れておく
- 鳴いても吠えても構わずに諦めさせる
- 吠えがおさまらない場合は、ケージ内の通気性に気をつけながら、上から毛布などをかける
- 吠えている時は犬の要求に応えず、ケージから出さない
トイレが上手にできること
トイレのしつけは、子犬を迎えたらすぐに始めましょう。鼻を下に下げて部屋の中のにおいを嗅いでそわそわしている様子はトイレの合図です。
ハウスから出したときや寝起き、ごはんを食べた後など興奮しそうな状況はトイレをする可能性が高いです。トイレをサークルで囲んでセットしておき、においを嗅いだタイミングで、サークルの中に子犬を入れ「チッチ」「トイレ」「おしっこ」と決めた言葉で声掛けを行い、成功したらすぐにサークルから出して褒めてあげましょう。
トイレの失敗で怒ったり体罰を使ったりすると、隠れた場所で排泄するようになったり、ウンチを隠そうとして食糞する可能性があります。失敗しても怒らず掃除をし、上手にトイレができたら褒める動作を繰り返し行います。
無駄吠えをしないこと
警戒が強い犬、要求が強くわがままな犬は無駄吠えをする傾向があります。
- 犬の要求に応えない、諦めるまで無視をする、飼い主の姿が見えないようにする
- 「おすわり」「待て」「伏せ」といった基本的なトレーニングを継続して行う
- ケージトレーニングを行ってお留守番の練習をする
- 分離不安にさせないように、徐々に飼い主と離れる時間を作る練習をする
大きな音や日常の生活音に驚かないこと
怖がりの犬は、電話、インターホン、掃除機、ドライヤー、テレビ、ラジオ、雷、花火、踏切、道路の音といった全ての音に敏感です。大きな音や日常の生活音に慣らすことで、急なパニックや交通事故から愛犬を守ることができます。
苦手な音をICレコーダーに録音して、小さな音量から流し続けて音慣れを行う方法や雷が鳴りそうな日は、窓を閉めておいたりテレビやラジオをつけておくといった対処もあります。
犬同士の喧嘩をしないこと(社会性があること)
母犬や兄弟達と過ごしていた期間が短かったり、社会化期に多くの体験ができなかった犬は、経験不足で犬同士の正しい挨拶の仕方がわからず、喧嘩やトラブルに巻き込まれやすいです。
- 他の犬が近づく際に、飼い主さんに「大丈夫ですか?」と断りを入れる
- 犬に慣れるまでは、ドッグランなど不特定多数の犬が集まる場所に連れて行かない、犬から絶対に目を離さない
犬のコミュニケーションは犬同士で解決するしかありません。犬同士にも相性があるので、無理に犬の挨拶をさせる必要はありませんが、相手の犬と自分の犬の目線が「バチッ」と合って、尻尾を高く上げて背中を逆立てて、動かない時は、喧嘩の兆候です。
この場合は犬の目を合わせないように気をつけながら、足元にドッグフードやおやつ、おもちゃをばら撒いて気を引いている間にその場から移動させることも方法の1つです。
お留守番中にいたずらをしないこと
お留守番のときに犬を室内でフリーにしている場合、家具や電気コードといったあらゆるものを破壊する可能性があります。子犬はなんでも口にするため、誤飲は命に関わることもあります。
- お留守番の間、長く噛めるおもちゃを与えておく
- ストレスを溜めないように運動を多くさせる、お留守番の前に散歩に行って疲れさせる
- ケージトレーニングをしてお留守番をさせる
- 飼い主さんが出かけるときと帰ってきた時に、犬に構わず無視してテンションを上げないようにする
お散歩が上手にできること
毎日のお散歩が上手にできることも大切です。行きたいところに引っ張る犬の散歩は体力も多く使いますし、交通事故や犬同士の喧嘩に巻き込まれることもあります。
- 飼い主が主導の散歩(リーダーウォーク)を行い、引っ張らないことを徹底させる
- 愛犬がお散歩のコースを選ぶのではなく、飼い主がお散歩コースを選び、毎日同じコースでなく、時々コースを変えることで犬に新しい刺激を与える
成犬でもしつけは間に合う?
家にやって来たばかりの子犬であっても、社会化期をとっくに過ぎた成犬であっても「しつけ」を行うことは可能です。成犬になった保護犬や、社会化ができなかった犬、心に傷を負った犬と暮らすようになった時でも慌てる必要はありません。「しつけ」は犬におすわりや伏せをさせて、指示に従わせることではなく、人間と暮らしやすい犬になるように導くことです。
成犬でもできることはたくさんあるのでしつけはどのタイミングからでも間に合います。臆病な犬が、怖がって拒絶する場合は無理をさせずに、時間をかけて飼い主さんも楽しい気持ちでしつけを行いましょう。
飼い主さんが早くできるようになろうと慌てると犬も緊張してしまうので、リラックスして取り組むようにしましょう。
しつけに困ったらドッグトレーナーに相談すること
しつけが大切だと分かっていても、どのようにしつけたらよいのか分からなかったり、しつけたつもりでも、いつの間にかできなくなってしまうということもあります。
こんな時は、自分一人で解決しようとせずに周りの人に頼ることも大切です。しつけが得意な犬仲間でも良いですし、本やインターネットを参考にしてみてもよいでしょう。
より効果的にしつけを行いたい、できるだけ早く対処をしたい、自分では手に負えないと思ったら、ドッグトレーナーやしつけ教室などに相談することをおすすめします。
しつけはとても奥が深く、1つのお悩みに対しての解決方法もたくさんあるので、愛犬に一番合った方法を見つけてあげるとよいでしょう。
よくあるしつけの悩みと対処法
犬のしつけに関するお悩みとして、トイレや吠えに関するしつけや噛み癖、興奮しやすく抑えられないといったケースが多いといわれています。
このような悩みに直面した時、皆さんはどのように対処していますか?どの悩みにも共通していえることを挙げると、
- 叱るときは問題が起こった直後に、短くそのタイミングだけしかること。決して感情的に怒らないこと
- 上手くできたらものすごく褒めること。おやつやおもちゃを使うのもよい
- しつけは焦らず、愛犬の性格に合わせて根気強くやること。
できるだけ犬が混乱しないように分かりやすく、根気強く行うことが大切です。
犬種によってしつけの悩みが違うことも
犬種にはさまざまな特徴がありますが、しつけのお悩みが違う傾向にあるのをご存知でしょうか。
例えば、ミニチュア・ダックスフンドなら無駄吠えやトイレ、柴犬や牧羊犬に多いのは噛み癖といったように犬種によって多くみられるしつけのお悩みの傾向は異なります。
お散歩も中型犬や大型犬になると、引っ張り癖の悩みが多くなるなど、その犬種の本能や習性も関わってくるので、犬種の特徴を理解しておくと、スムーズなしつけを行うことができます。
しつけは子犬でも成犬でも、犬を混乱させないために新しい家族になったその日からはじめることをおすすめします。問題を起こすまで好き放題にさせておいて、ある日突然全てのことを否定されて、直していくのは犬にとって大きなストレスになります。
家族の一員となった日から、家族全員でルールを決めて徹底しておけば、犬のストレスも、飼い主のストレスもなく当たり前の生活として、人との暮らし方を犬に学習させることができます。
犬が人間社会で生きていく上で、しつけはとても大切です。もし悩んだら周りの人やさまざまな情報に耳を傾け、愛犬に合ったしつけの方法を探してあげましょう。愛犬のペースに合わせて、根気強くしつけを行うことが大切です。
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