犬にも認知症があることをご存知ですか?高齢になり、認知症になった老犬は、排泄の失敗や吠える、徘徊といった症状が現れ、程度によっては介護が必要となります。今回は、犬の認知症の症状や予防・対策方法についてご紹介します。
認知症って何?
人間の高齢者の認知症は社会問題となっています。認知症は、「認知障害」ともいわれ、さまざまな原因から脳の細胞が死んでしまったり、減ったり、働きが悪くなることで、身体にさまざまな障害が起こり、生活に支障が出ている状態をいいます。「認知症」は特有の症状を示す名前で病名ではありません。
人間における認知症の原因の多くは、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体病と、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などが原因となる脳血管性認知症で、脳や細胞の数が少なくなったり、機能しなくなったりすることによって記憶力や判断力が低下することを認知症といいます。日本の場合だと認知症の半数以上の原因がアルツハイマー病だとされています。
〜出典:厚生労働省HP〜
犬も認知症になるの?
人間と同様に犬も認知症になります。人間のアルツハイマー型の認知症ではタンパク質の1種である、脳のβ-アミロイドが蓄積・沈着して、老人斑を作ることで神経細胞の伝達に異常が起こり脳の機能が悪くなり認知障害(認知症)を引き起こします。 犬における認知症も「認知障害(認知機能不全症候群)」のことをいい、人間と同じように年とともに脳のβ-アミロイドが蓄積・沈着することで、認知障害(認知症)を引き起こします。
研究によると、老犬の認知症は11歳を超えると約50%、15歳を超えると80%以上が認知症となり、特に柴犬に多いことがわかっています。 人間の高齢化と同じように、医療技術の進歩で犬もご長寿な老犬が多くなり高齢化が進んでいます。高齢者も老犬も認知症は同じ問題なのです。
犬の認知症はどんな症状?
犬が認知症になると主に以下のような症状が認められます。症状の進行は個体差があり、老犬の行動で、あれ?いつもと違う?と飼い主さんが老犬の異変に気がつくことで認知症がわかるケースが多く、老犬になって頑固になった、高齢犬だからしょうがないと思っていたら認知症だったというケースもよくあります。
- ごはんを何度も催促する
- 食欲が低下する
- 排泄の失敗
- 突然吠える、または鳴き続ける(朝鳴き、夜鳴きなど)
- 昼夜逆転、徘徊
- 迷子になる
- 狭いところに入って出られなくなる(後ろに下がれなくなる)
- 転んだり、からだを家具などの障害物にぶつけやすい
- 家族の認識ができなくなる(よそよそしい態度をとる)
- 性格が変わる(急に攻撃的になる、無気力になるなど)
- 分離不安になる(飼い主に甘えてべったりになる)
- 無反応になる(遠くや、1点を見たままボーッとしている)
- 急にびっくりしたり、痛がるような異常な鳴き方をする
認知症は治療できるの?
犬の認知症の治療は確立されていません。進行してしまった認知症は治りませんが、壊れてしまう細胞の進行を食い止めるために、サプリメントを与えることで進行を遅らせる効果が期待できます。 認知症対策用のサプリメント マンションやアパート暮らしでの、犬の認知症による夜鳴きはご近所トラブルにもなります。こういった対策として市販の認知症対策サプリメントも多く販売されているのでチェックしてみてください。
【ビタミンB群、コリン】
全ての細胞にとってビタミンB群は必須のもので、神経系と脳の機能や神経伝達物質の生成、血管の拡張などのためにも必要となるビタミンです。特にビタミンB6やビタミンB群の仲間であるコリンは認知症に効果が期待できます。
【DHA、EPA(不飽和脂肪酸・オメガ3脂肪酸)を含む魚油】
魚には不飽和脂肪酸が多く含まれています。魚油に多く含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は、不飽和脂肪酸のうち必須脂肪酸であるオメガ3脂肪酸の供給源となります。 必須脂肪酸は細胞の働き、脳や神経の機能、ホルモンの生成に重要な役割を持つので、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)を摂取することで、脳の活性化や機能向上に役立ち、認知症の予防になります。
【抗酸化物】
タンパク質の1種であるβ-アミロイドが脳内で蓄積・沈着することが認知症の原因とされていますが、抗酸化物によってアミロイドの生成を抑制することで、認知症の予防に効果があることがわかっています。抗酸化物は、からだの酸化を防ぐ効果があり、脳細胞の酸化とダメージを予防します。
認知症を予防する方法
老犬の認知症を予防するためにできる方法には以下のような方法があります。
老犬(シニア犬)とのコミュニケーションを多くとる
お留守番を長くさせないことや、マッサージをおこなうなど、できるだけ多く老犬とスキンシップをとることで、おもちゃを使ったり、おやつを使ったりして遊んで刺激を与えることも認知症予防の1つです。
老犬(シニア犬)ストレスを与えない
ストレスと認知症には関係性があります。活性酸素と呼ばれる物質は、本来有益なもので、細菌などを攻撃する作用があります。しかし、犬にストレスがかかった時に、体内の活性酸素が異常に作られて、必要な脳の細胞などを傷つけ、壊してしまうことで脳細胞の酸化が進み、老化や認知症が一気に進行することがあります。
運動させる
老犬が自分で歩けるようであれば、適度な運動は認知症予防には欠かせません。外のにおいを嗅ぎ、からだを動かすことでストレス発散にもなります。
犬に刺激を与えること
犬に新しい刺激を与えることは予防の方法としてオススメです。ストレスがかからない範囲で、新しいルートのお散歩や、お散歩中の犬とのコミュニケーションをさせるのも良いでしょう。
食事内容の見直しやサプリメントの利用
認知症の老犬は、からだの代謝機能の低下や、栄養素が低下している傾向があります。脳や神経の機能のサポートに必要な不飽和脂肪酸や、細胞を守る抗酸化物質を多く摂取できるような食事内容にすることも、認知症を予防するために効果的です。
認知症になってしまった時の症状別の対処法
老犬が認知症になってしまった時の対処法をそれぞれご紹介していきます。
ごはんを何度も催促する
老犬がごはんを食べたことを忘れている場合は、食事への執着から違うことに興味を反らしてあげましょう。おもちゃで一緒に遊ぶことや、お散歩の距離を短くして、回数を多くさせて満足感を運動から与えると軽減する傾向があります。
食欲が低下する
犬は自分で食事を選べません。老犬への食事に関わるサポートは、認知症予防だけでなく愛犬と長く一緒に暮らすために重要なことです。ごはんのにおいや種類を変える(違うドッグフードにする)ことで新しいにおいに興味を持ち食欲が出ることもあります。犬が好む食べ物を入れてトッピングをする、サプリメントを加える、認知症の予防となる抗酸化物や必須脂肪酸を多く含む食事内容に変えることもおすすめです。
排泄の失敗
いつもトイレが上手にできていたのに、急にトイレを失敗するようになることもあります。これは、老犬の関節のこわばりや痛み、筋肉や泌尿器の衰えからおもらしをしてしまうケースと、認知症が理由で排泄を失敗するケースがあります。 どちらにしても、老犬の介護では、排泄の失敗で怒ることは、犬のストレスと精神的な動揺を煽るだけです。室内にペットシーツを広く敷く、トイレの場所を近くする、おむつを利用する、こまめに排泄を促すといった方法でサポートをおこないます。
突然吠える、または鳴き続ける(朝鳴き、夜鳴きなど)
急に吠える、吠え続けるという行動は、多くは老犬の不安や寂しさからくるケースが考えられます。夜中に吠え続けるといった行動は、昼夜逆転してしまい、愛犬が精神的に不安定になって吠えているのかもしれません。 この場合は、夜間少しでも寝かせてからだを休ませるためにも、老犬との触れ合いを多くすることと、日中の運動量や活動量を増やして疲れさせることで、夜間にしっかり熟睡できるようにアプローチします。運動の疲れの他に学習の疲れも有効です。おすわりや待て、という基本的な指示や、新しい遊びをしながら頭を使わせます。 寝かせる時はひとりぼっちにしないように、家族のにおいがする同じ空間で寝かせるか、飼い主のにおいのついた敷物を敷くことや、起きた時に真っ暗で状況が把握できないとパニックになることもあるので、室内の明かりを真っ暗にせず、騒がしくない程度にラジオやテレビをつけておくことも良いでしょう。
昼夜逆転、徘徊
夜鳴きと同じく、昼夜逆転、深夜徘徊は、昼間にぐっすり寝ないように日中の運動量を多くすること、頭を多く使う遊びをしてコミュニケーションをとることで、夜間寝かせることができます。老犬の体力があって、しっかり歩けるのであれば、1回のお散歩の距離を短くして、1日に何度も近場をお散歩するだけでも効果があります。 特に深夜徘徊は、家族も寝ているため、台所で物を食べてしまう、部屋に置いてある物や落ちているものを食べてしまう、脱走するという可能性があります。この場合は、脱走や室内の移動ができない部屋で寝かせるか、ケージやサークルの中に入れて、犬の安全を守るべきです。症状によっては獣医師が睡眠導入剤を処方するケースもあります。
同じ方向に歩き続ける旋回や狭いところに入って出られなくなる(後ろに下がれない)
室内をひたすら歩き回る、同じ方向にぐるぐると歩き続けてしまう「旋回」も認知症の特徴です。後ろに下がるという動作ができないため、壁に当たったり、転んだり、家具の間に挟まって身動きが取れなくて、家の中で迷子になることもあります。 旋回対策は、円の形をしたサークルか、ぶつかっても怪我をしない子供用のプールを購入してサークルの代用として、犬を入れておくことで、怪我や脱走を防ぎます。
迷子になる
旋回や徘徊とも重なりますが、迷子になるのは室内屋外と両方の可能性があることを認識してください。屋外はどこに出ていってしまうかわからず、一度外に出たら戻ってこられない可能性もあります。室内もまさか!と思うような場所に入り込んで、物に絡まってしまうこともあります。室内の戸締まり、ドアを開けっ放しにしない、円形サークルやケージの利用で迷子になることを防ぎます。階段は転落の可能性があるので侵入防止ゲートを設置しましょう。
転ぶ、からだを家具などの障害物にぶつけやすい
後ろに下がれないため、方向感覚をなくしている犬は、よろけることや、階段での転倒、落下によって怪我をすることもあります。もし認知症になって家具にぶつかるようになっていたら、可能な限り障害物を取り除いてあげましょう。
家族の認識ができなくなる(よそよそしい態度をとる)
大切にしてきた愛犬が自分のことを認識できなくなることはとても辛いことです。しかし、受け入れるしかありません。できるだけ一緒の時間を過ごし、声かけを多くしてあげたり、おやつを使ってトレーニングをしたりするのも方法の1つです。
性格が変わる(急に攻撃的になる)
性格が変わることも認知症の特徴です。今まで温厚であった愛犬が、突然攻撃的な性格になったとしたら、からだのどこかに痛みがあるか、認知症を疑うべきです。もしかしたら、飼い主さんだと認識していない可能性もあります。攻撃性を見せる犬に対して、体罰や攻撃的な方法で向き合うと、犬はパニックを起こすでしょう。パニックを起こして攻撃性を見せている時は、急に触らない構わないことがベストです。 愛犬の性格が明らかに変わったと思ったら、焦らず冷静に大きな声を出さずに、飼い主さんや大好きな人のにおいのついた洋服やタオルを老犬の寝床にそっと敷いてあげてみてください。犬の嗅覚は優れているので、安心するかもしれません。
性格が変わる(無気力・無反応になる)
攻撃的の反対で、遠くや、1点を見たままボーッとしているといった、無気力・無反応になる性格の変化もあります。また、認知症が進行した老犬で、昼夜逆転などの問題行動のために処方された睡眠導入剤や精神安定剤を服用している場合、副作用としてボーッとすることがあります。 この場合では、老犬の状態を把握しながら、できる範囲で、運動やマッサージをおこない、脳に刺激を与えてあげましょう。お散歩は、1回の時間を短くさせて、回数を多くさせるとより犬に刺激を与えることができます。
分離不安になる(飼い主に甘えてべったりになる)
老犬が突然分離不安症になることがあります。これは、不安な気持ちや、自分のからだに対する異変の戸惑い、老犬になんらかの変化があって、飼い主さんに甘えてトイレやお風呂までついてこようとするなど、時には急にパニックを起こします。 この時は慌てずに、飼い主さんや家族のにおいのついた洋服やタオルを老犬の寝床に敷いてください。さらに日中は、外に出てお散歩をするなど、愛犬と触れ合う時間を多くして、心を落ち着かせ安心させてあげましょう。あまりにも分離不安が強い場合は、精神的にも犬が落ち着かずにストレスがかかるので精神安定剤を服用するケースもあります。
急にびっくする、痛がるような異常な鳴き方をする
難聴の進行や、からだの関節や筋肉、神経に痛みが出たりしている可能性もあるので、状況によっては獣医師の診察を受けましょう。
まとめ
犬も人間と同じように認知症になります。進行した認知症は治療をすることができませんが、予防や、進行を遅らせることができる場合もあります。できるだけ老犬と一緒の時間を過ごし、遊び、ストレスを与えないようにし、食事やサプリメントでしっかりと栄養を摂取し、運動やマッサージ、頭を使い、脳や神経系に刺激を与えることが認知症を防ぐ方法です。
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