犬猫のマイクロチップ義務化 情報登録とメリット・デメリットを獣医師が解説

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犬猫のマイクロチップは首輪や迷子札がなくても体内に装着することで個体識別ができるものです。令和4年6月1日からブリーダーやペットショップなどで販売される犬猫へのマイクロチップ装着と変更登録が義務化となりました。マイクロチップ義務化の目的、情報登録の手続きの流れについて、そしてマイクロチップ装着のメリットとデメリットについて獣医師が解説します。

今回の法律では、一般の飼い主さんについては愛犬への装着は努力義務(登録変更は義務)となりましたが、かわいそうという意見や批判、反対の声もあります。愛犬にとってよりよい判断となるように、マイクロチップの装着を迷われている飼い主さんにも是非知っていただきたいです。

犬や猫の体に装着するマイクロチップとは

犬や猫の体に装着するマイクロチップとは ドッグパッド

マイクロチップとは、犬や猫の個体を識別するための電子標識器具で、
大きさは、直径が2mm、長さが約8~12mmの円筒形をしています。

このチップを針が太めの注射器のような器具(インジェクター)を使って、犬や猫の体内に埋め込みます。

犬の体内にマイクロチップを埋め込む場所は、背側頚部(背側正中線の肩甲骨間より頭部側)と呼ばれる正中線よりやや左側(首の後ろ)の皮下へと装着されます。

皮下というのはあまり聞かない言葉かもしれませんが、皮膚と筋肉の間にある組織のことをいいます。犬は皮下のスペースが大きく、動物病院での点滴やワクチンなどの注射でも皮下のスペースに注入をすることがありますが、基本的に違和感が続いたり強い痛みが生じることはありません。

画像の上がマイクロチップを埋め込むときの器具、下がワクチンなどで使われる普通の注射針です。

マイクロチップを装着する注入器(インジェクター)ドッグパッド

チップには、世界で1つだけとなる15桁の数字が記録されていて、15桁の数字と飼い主の登録情報を指定登録機関である犬と猫のマイクロチップ情報登録に登録を行なった上で、その数字を専用の読取器(リーダー)で読み取ることで、個体の識別をすることができます。

犬猫のマイクロチップ装着などの義務化、何が変わった?

犬猫のマイクロチップ装着などの義務化、何が変わった?

「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律」が令和4年6月1日に施行されたことで、令和4年6月1日よりペットを販売するブリーダーやペットショップなどの業者への犬猫のマイクロチップ装着と、すでにマイクロチップを装着した犬猫を譲り受けた者の登録変更が義務化となりました。また、犬猫販売業者以外の一般の飼い主についての装着は努力義務となりました。

つまりペットショップやブリーダーなどの販売事業者から入手する犬猫については、すでにマイクロチップを装着している状態で、以前から飼っている犬猫に関しては政府としては装着を推奨するが、飼い主さんに判断が委ねられるという状態です。

一般の飼い主については犬猫のマイクロチップ装着は努力義務である

一般の飼い主さんについては犬猫へのマイクロチップの装着は努力義務となりますが、大きな災害が発生したときやペットが迷子になった場合に、飼い主さんが愛犬や愛猫と再び再会できる可能性が高まります。

実際に迷子になった動物が保護されると、ほとんどの場合では最寄りの警察署や保健所へ届け出がされます。首輪や迷子札に連絡先があれば連絡が届きますが、連絡先が見つからず、また迷子の届出がない場合では保健所や動物愛護センターへと保護収容されます。

犬の場合、迷子になってしまうと無目的に歩き続けてどんどん距離が離れてしまうことも珍しくなく、時間が経ってしまうととんでもなく遠いところで発見されることもあります。このため、発見場所が届出を出した場所と離れてしまっている場合には届出を出していても見つけられないことも多くあります。

しかし、マイクロチップを装着していればどこで保護されても登録情報のデータバンクから飼い主へと連絡をとることができるので、ペットが離れた場所で見つかっても再会できないという心配を取り除くことができます。

令和4年6月1日以降は、環境大臣が指定した指定登録機関である「犬と猫のマイクロチップ情報登録」に登録を行う

これまでは、犬にマイクロチップを装着した後、飼い主が「動物ID普及推進会議(AIPO)」や「ファミリーID管理機構(FAM)」などの民間事業者へマイクロチップの番号、飼い主の名前、住所、連絡先などの登録が個々に行われていましたが、犬猫のマイクロチップ義務化によって、今後は環境大臣が指定した指定登録機関である「犬と猫のマイクロチップ情報登録」に登録、情報変更を行わなければなりません。

この移行手続きは、民間事業者が情報を共有することはなく、飼い主自身が環境省のデータベースとなる「犬と猫のマイクロチップ情報登録」に情報を登録する必要があります。

「犬と猫のマイクロチップ情報登録」への登録と手続き

「犬と猫のマイクロチップ情報登録」へ手続きを行う必要があるのは、

・マイクロチップを装着したとき

・犬や猫を購入・譲り受けたとき

・飼い主の住所や連絡先など登録事項が変わったとき

・登録証明書を再発行するとき

・犬や猫が亡くなったときなどです。

犬の場合、飼い主は狂犬病予防法によって飼い犬の登録と毎年狂犬病予防注射の接種を行うことが義務付けられていますが、犬の登録については、犬の所在地が狂犬病予防法の特例に参加している市区町村の場合は、「犬と猫のマイクロチップ情報登録」へマイクロチップ情報が登録されると、市区町村に必要な情報が送付され、狂犬病に基づく犬の登録も申請されたとみなされます。

※犬の所在地が狂犬病予防法の特例に参加していない市区町村の場合は、「犬と猫のマイクロチップ情報登録」へのマイクロチップの情報の登録とは別に、これまで通り市区町村の担当窓口で飼い主が飼い犬の登録手続きを行う必要があります。

一般の飼い主の手続きについて

次に、一般の飼い主さんの手続きについてみていきます。

まず、ペットショップやブリーダーから犬を入手する場合、マイクロチップの登録情報では所有者が販売事業者になっているため、飼い始めてから30日以内に所有者情報を変更登録しましょう。変更登録は環境省の「犬と猫のマイクロチップ情報登録サイト」で行えます。

次に、まだマイクロチップを装着していない愛犬に新しくマイクロチップを装着する場合には、装着30日以内にマイクロチップ情報と所有者情報を登録する必要があります。装着をした際に獣医師から「マイクロチップ装着証明書」を発行してもらえるので、その内容と登録情報を環境省の「犬と猫のマイクロチップ情報登録サイト」に登録しましょう。

一般の飼い主の手続き詳細は「犬と猫のマイクロチップ情報登録 犬や猫の飼い主の手続き一覧」の内容をご確認ください。

また、環境省のホームページでは、今回のマイクロチップ義務化にあたり、犬と猫のマイクロチップ情報登録に関する情報が公開されているので、一度目を通されておくことをおすすめします。

環境省ホームページ:犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A

登録手続きには登録手数料がかかる

「犬と猫のマイクロチップ情報登録」へ情報を登録する際は、オンラインでの申請では300円、紙による申請では1,000円の手数料がかかります。

また、登録証明書の再交付を行う場合は、オンラインでの申請では200円、紙による申請では700円の手数料がかかります。

※オンライン申請の場合は、クレジット決済が可能です。

マイクロチップの装着は海外への移動の際に必須となっている

ヨーロッパを中心に海外でもマイクロチップの義務化が進んでいます。
また、日本では「犬等の輸出入検疫規則」により、日本へ動物を輸入する際、ISO規格のマイクロチップの埋め込みが義務化されています。もし、海外にワンちゃんと一緒に出掛け、帰国しようとしたときは必ずマイクロチップを埋め込まなくてはいけません。

犬の体にマイクロチップを装着するメリット

犬の体にマイクロチップを装着するメリット ドッグパッド

迷子の犬を減らすことができる

保健所へ連れてこられる犬は捨てられてしまった犬だけではありません。何らかの理由で飼い主とはぐれてしまった迷子の犬もたくさんいるのが現状です。そして、期限までに飼い主に再会できず、殺処分されてしまう犬もたくさんいます。

日本では今まで、犬の鑑札による個体識別が一般的でしたが、災害時などさまざまな状況によって首輪が外れてしまうと、犬の個体識別を行うのは困難でした。

しかし、マイクロチップは犬の体の中に装着されているため、犬が迷子になったり、逃げてしまって保護されたときに首輪など身元がわかるものがついていなくても、マイクロチップを読み取る専用のリーダーでマイクロチップの15桁の番号を読み取り、番号をデータベースに照会することで、飼い主の情報と犬の個体識別をすることができます。

落としたり壊れたりしない

鑑札や迷子札は首輪に付けるのが一般的なので、犬が逃げた場合や災害時などに観察を落としたり、外れたり、壊れてしまったりすることがありますが、マイクロチップの場合はそのようなことはありません。

犬が連れ去られた際の証明書になる

こんなことは想像したくはありませんが、犬の連れ去り被害(誘拐・盗難)にあった場合でも、マイクロチップが装着されていれば、犬が見つかった際に自分の犬であることをチップを読み取ることで確実に証明することができます。

ペットの飼育放棄や遺棄を減らす

ペットの飼育放棄や遺棄を減らす

日本では「飼育できなくなったから」と山などに捨ててしまったり、保健所などに置いて行ってしまったりする飼い主がいるのが現状です。

犬にマイクロチップが装着されていれば、保護された際に飼い主の情報を明らかにすることができ、無責任な行動を減らすことができます。

犬の体にマイクロチップを装着するデメリット

犬の体にマイクロチップを装着するデメリット ドッグパッド

チップの埋め込み時に痛みを伴う

マイクロチップは犬への皮下注射で埋め込みます。
直径2mmのマイクロチップを入れた針を刺すため、通常の注射針と比べると太い針になりますが、犬は注射と同様の痛みを感じるといわれています。

痛みに我慢強い子もいますが、場合によっては局所麻酔で痛みを軽減するなど動物病院によって工夫されています。飼い主さんが希望した場合は、去勢手術時や避妊手術時の麻酔下で一緒にマイクロチップを埋め込む方法もあります。

マイクロチップが体内に存在することに関して心配をされる飼い主さんも少なからずいますが、マイクロチップの表面には生体内での副反応がない素材が用いられていることから、体内に存在していても害を及ぼすことはありません。装着に関しても獣医師が正しく施術することが法で定められているので、動物の体に大きな負担がかかることはありません。

※マイクロチップを装着するインジェクターについている針の工夫によって、以前より装着時に犬が痛みを感じにくくなっているともいわれています。

MRI撮影の画像に悪影響が出ることがある

マイクロチップは一般的に、犬の首の後ろあたりに装着しますが、もし、犬が病気や怪我をした際にマイクロチップを装着した部分のMRIの検査が必要になったときは、チップの入っている部分の画像が歪むなどの悪影響が出ることがあります。ただし、体内への悪影響はなく、ほとんどのMRIはマイクロチップが入っていても問題なく撮影できます。レントゲンでは画像に影響が出ることはありません。

マイクロチップが皮下を移動することがある

マイクロチップは一般的に犬の首の後ろあたりの皮下に装着されますが、皮下の間を移動することがあるともいわれています。このため、装着後に激しい運動をしたり、装着した部位をむやみに触ったりしないようにしましょう。

専用の読取器「リーダー」がないとチップを識別できない

犬の体の中に入っているマイクロチップだけでは犬の個体識別をすることはできません。専用の読み取りリーダーで、個々に与えられた15桁の数字を読み取り、データベースに照会することで初めて、どの飼い主の犬なのか情報を識別することができます。

このことから、マイクロチップのリーダーがないところで保護された犬の場合は、マイクロチップが装着されていても番号を読み取ることができず、15桁の番号の照会を行うことができないため、飼い主をすぐに特定することはできません。このリーダーは、全国の動物保護センターや保健所、動物病院などに置かれています。

犬猫へのマイクロチップ装着が批判・反対されているのはなぜ?

インターネット上にはマイクロチップの装着義務について批判している意見も数多くあります。前述した通り、マイクロチップの装着についてはメリットとデメリットの双方が存在するので賛否が分かれることは当然かもしれません。反対意見の中の多くはマイクロチップ装着は動物への負担が大きいので代替案を採用すべきだとする意見です。

現実的な代替案としては鼻紋による個体認識があります。犬も猫も鼻の細かい溝の模様は個体に特有のもので、人の指紋のように鼻の模様である鼻紋を使って犬や猫を識別することが可能です。

確かにこの鼻紋をデータバンク化すれば動物が痛い思いをしてマイクロチップを装着する必要はありません。

しかし、現実的な問題としてマイクロチップに登録される15ケタの数字と違って鼻紋を登録するには大きなデータ容量が必要で、また識別ができるほど明確に撮影することも難易度が高く、全てのペットの鼻紋情報を登録することはコスト的に困難で、現状で実現可能な方法としてもっとも負担が少ないのがマイクロチップの装着であるという状況であるといえます。そのためマイクロチップの装着は世界的に一般的で、とってかわる手法はいまだにありません。

それでも、マイクロチップは精密機械であり、故障が生じたり消耗品としての寿命が存在します。保護された自治体で装着したマイクロチップが読み取れなかったり体内で移動したことでうまく読み取れない可能性もゼロではありません。実際にペットを連れて海外へ渡航する際にも空港でマイクロチップを読み取れずに立ち往生するケースもあるようです。

鼻紋認証については、民間のアプリケーションでは鼻紋認証で迷子犬の判別や保険証や会員証との連携を行なっているものもあります。制度としてのマイクロチップ装着とは別に検討をしてみるのもよいかもしれません。

関連記事:【ドッグパッド】犬の鼻紋認証技術で迷子犬ゼロを目指す!日本初のサービス「Nose ID」

最後に

令和4年6月1日から犬と猫のマイクロチップ装着が義務化されました。また、一般の飼い主についてはマイクロチップの装着が努力義務であるものの、マイクロチップの義務化によって、捨てられる犬や迷子犬、殺処分される犬が減ることも予想されています。

日本は災害が多い国といわれています。万が一に備えてマイクロチップを装着していると愛犬と早期に再会できる可能性が高まるメリットがあります。

異物であるマイクロチップを愛犬の体に埋め込むなんてかわいそうと思う方もいるかもしれません。メリットとデメリットなどマイクロチップ正しい知識を持って、装着するかしないかは、大切な家族の一員である愛犬にとってよりよい判断をしていただけたらと思います。もし、マイクロチップのことで不安なことがあったら、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。

「犬と猫のマイクロチップ情報登録」ホームページ:https://reg.mc.env.go.jp/

環境省ホームページ 犬と猫のマイクロチップ情報登録に関するQ&A:https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/pickup/chip.html

犬と猫のマイクロチップ情報登録 環境省データベースへの移行登録受付サイト:https://www.aipo.jp/transfer

獣医師T

獣医師T

獣医師。大学在学中はウイルス学の研究をしながら犬の行動学(しつけ)に関する学生団体に参加し、卒業後は動物病院での勤務を経てペット関係の企業で勤務。ワンちゃんについて勉強したことやこれから勉強することを社会に役立てられるように邁進中。

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