不定期連載させていただいている獣医師TのDOG PAD相談室ですが、今回から数回分にわたって、夏にありがちな飼い主さんのお悩みにお答えする「真夏の相談室」を開催することとなりました。
今回は真夏の相談室第1回ということで、夏によくある、犬の大きな音への過剰反応に関するお悩みについてお話しします。
犬の苦手な大きな音は夏につきもの
突然ですが、皆さん「夏」というとどんなことを想像されますか?花火、お祭り、家族だんらんなどを想像した方も多いのではないでしょうか?
実は、これらの「花火」「お祭り」「家族だんらん」3つのイベントは、どれも「慣れない大きな音」という恐怖刺激を含んでいます。
カミナリに驚いたり怖がったりするのは犬にも人にもよくあることですが、花火の破裂音やお祭りでの騒ぎ声、親戚が集合した時の大きな笑い声などは、状況を理解できない犬にとってはカミナリと同じように恐怖に感じてしまう刺激なのです。
愛犬が恐怖や不安を感じているサインを知ろう
犬にとって大きな環境音が恐怖刺激であることはお話ししましたが、どの程度の音の大きさやどのような音に対して恐怖を感じやすいのかは個体差があります。
この個体差には、カミナリを怖がる人と大丈夫な人がいるような性格の問題だけでなく、基礎疾患があることや老化によって恐怖刺激に反応しやすくなるという原理や、牧羊犬のうちのいくつかの犬種で雷に反応しやすいというような品種差が存在しているので、普段は臆病な性格じゃないのに大きな音には過敏だったり、去年までは大丈夫だったのに突然怯えるようになったりすることがあります。
飼い主として重要なことは、愛犬が環境の変化や大きな音に怯えている・恐怖を感じていることにすぐに気づいて対処をしてあげることです。
犬が恐怖や不安を示すサイン
犬が恐怖や不安を示しているサインとしては以下様子が挙げられます。
・しっぽを下げてすくむ、耳を後ろに倒す、震える
・息が荒くなる(パンティングをする)
・キョロキョロと周囲を見回す、ウロウロと歩き回る
・唸り声をあげる
・フードやおやつを与えても食べない
・生あくびを繰り返す
など
大きな音に怖がる犬への対策①「安心できる場所と避難経路を用意してあげる」
大きな音に怖がってしまう犬に対する最も簡単で効果的な対処は、まずはその音を無くすことです。
親戚の集まりや来客の声に怖がっている場合には少し静かに話してもらうようにお願いするのも効果的かもしれませんが、カミナリや花火の音に怖がっている場合ではそうもいきません。
そこで、自分の身に置き換えて考えてみましょう。
暗い路地で突然大きな音が鳴る場合と、家の中にいる状態で大きな音が鳴る場合、どちらも驚きはしますが、家の中にいるという安心感は大きな音の恐怖感をいくらか和らげてくれますよね。
この環境による差は犬にも当てはまることで、家の中をウロウロしている時よりもケージやクレートのような周りを囲まれていて安心できる場所であれば、音による恐怖感を和らげることができます。
花火や雷のように、「いつ鳴るかはわからないけれど、おそらく鳴りそうだ」と予測が可能な場合には、安心できる場所へ愛犬がすぐに避難できるような経路を用意してあげるとよいでしょう。 ただし、避難経路を用意してあげる場合にも、犬が自分で避難することが重要です。
愛犬がケージに慣れていなかったり、閉じ込められるのが嫌いなコの場合には、無理やりケージに入れようとするとかえってストレスとなるため注意してください。
大きな音に怖がる犬への対策②「怖がっている対象と喜ぶことを結びつけよう」
大きな音に対して、愛犬を安心する場所に隠れさせることも対策としては有効ですが、恐怖そのものを解決することはできません。このため、次に恐怖の対象である大きな音そのものに対する犬の認識を変える方法を紹介します。
もっとも手軽で効果のある方法として、犬が普段怖がるような大きな音が鳴るタイミングで大好きなオヤツを与えてみたり、普段遊んでいるお気に入りのオモチャで気を引いてみましょう。これを繰り返すことによって、大きな音がすると楽しいことが起こる!という認識を愛犬に植え付けることができます。
「パブロフの犬」や「オペラント条件付け」という言葉をご存知の方もいるかと思いますが、ある現象に対する動物の反応は、繰り返し条件付けを行うことで植え付けたり変換したりすることができます。犬が怖がる対象や怒る対象に対してこのようなオヤツやオモチャを用いた条件付けで慣れさせることは犬のしつけでよく行われる手法です。
大きな音に怖がる犬への対策③「ひどく怯えるときは獣医師に相談しよう」
ここまでお家でできる大きな音への犬の過剰反応への対策をご紹介してきましたが、音に対する怯え方があまりにひどかったり、恐怖反応として周りの人や物に攻撃をしてしまって手がつけられないという場合には、ぜひ動物病院で相談をしてみてください。
記事の中で紹介した方法はあくまでも「家の中で可能」な方法に限定されますが、行動学を専門とする獣医師であれば、問題行動にあわせた投薬などの専門的処置も含めた治療を提案してくれますので、飼い主さんやご家族がとても困っているという場合には一度相談だけでもしてみるとよいのではないかと思います。
獣医師TのDOG PAD相談室次回もお楽しみに♪
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