1件の重大事故の背後には300件のヒヤリハット(事故寸前の出来事)が隠れているというハインリッヒの法則を知っていますか?一見平和に見えるペットライフにも実は多くのヒヤリハットが隠されているかもしれません。多くの愛犬関係の事故に携わってきた獣医師が飼い主さんのお悩みにお答えします。
今回は、犬のトイレトレーニングについてのお話しです。
ドッグパッド愛犬相談室第2回 犬のトイレの失敗としつけ方
第2回目のドッグパッド愛犬相談室では、犬のトイレのお悩みについてみていきましょう。
※登場する人物や犬の名前等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
愛犬がトイレをはみ出す!飼い主さんの体験談
相談者Aさん:「我が家では1ヶ月前からトイプードルの子犬を飼い始めました。名前はカイくんで、やんちゃばかりしている男の子です。
カイくんのために室内に犬用トイレを設置したのですが、毎回トイレの隅にオシッコをしてしまって、半分くらいが外に溢れてしまっています。そんなことが続いていたのでカイくんがオシッコに行く時に毎回様子を見に行くようにしたのですが、カイくんも私の視線が気になるのか、お掃除をしている時にもこちらの反応を気にしている様子です。
ひょっとしてよそ見をしているからオシッコに集中できずにこぼしているのでしょうか?失敗した時は見ているだけじゃなくて、トイレからはみ出ていることを叱ったり注意した方がよいのでしょうか?」
トイレの失敗について獣医師Tの解説
では、ここからはカイくんのトイレのお悩みについて獣医師Tが解説していきます。
Aさんのお話から、カイくんのトイレの行動について重要な点をまとめると、
・一緒に暮らし始めて1ヶ月の子犬がトイレに失敗する
・トイレに失敗する時に飼い主の反応を気にしている様子がある
・トイレ失敗した時は叱ったほうがいいのか
という3点が挙げられますね。
まず、カイくんのようにトイレをする時に飼い主さんの反応を気にする様子があるというと、愛犬のしつけをしたことのある方は「飼い主さんに構って欲しくてわざと失敗している」という可能性を考えるのではないかと思います。
しつけ上の問題(専門的な用語では行動学的な問題といいます)で、飼い主さんの反応を求めて問題行動を起こしてしまう犬は多いです。
実際に、愛犬が上手にオシッコをしたときに、飼い主さんが過剰に喜んだことで、褒められたくて1日に数十回も排尿をしてしまう犬もいました。
しかし、今回ご相談いただいたカイくんの場合は子犬であって、お迎えしてからまだ1ヶ月程度だということも含めて考えると、故意に失敗しているというよりは、まだトイレのしつけができていないのかなという印象を受けます。
トイレトレーニングを正しく行なっていても、おうちに迎えた子犬がトイレに慣れて正しく排泄できるまでには、1週間~1ヶ月ほどかかるとも言われているので、焦ってしまうことは相談者さんにとってもカイくんにとってもあまりよくないことです。
なお、記事後半でも解説しますが、トイレができないからと焦って叱ってしまうことは絶対にいけません。
子犬のトイレトレーニングをする前にトイレの設置場所を考えよう
突然ですが、犬用トイレは室内のどこに設置していますか?
南側がよいとか日向がよいなどといった立地的な必要条件はありませんが、
トイレの設置場所として
・寝床や食事場所から離れていること
・生活の場から遠すぎないこと
の2点はとても重要です。
①犬のトイレを寝床や食事場所から離れた場所に設置する
犬に限らず多くの動物たちは寝床や食事場所から近くには排泄をしません。
たとえば豚の場合ですが、以前、養豚場に勤める獣医さんに、豚は餌場の対角線上の一番遠い角に排泄をするからトイレトレーニングは必要ない、という話を聞いて大変感心した覚えがあります。
もちろんそうでない動物もいますが、この排泄に関する習性は犬猫では重要なので覚えておきましょう。
②犬のトイレを生活の場から離しすぎない場所に設置する
また、2点目のトイレを生活の場から離しすぎないことは子犬にとっては一層重要です。
子犬が排泄を我慢できる時間はおおよそ月齢+1時間といわれています(もちろん寝ている時と起きている時でも異なりますが)。
小さいコは特にトイレの間隔が短いので、排泄をするのに遠いトイレまで行かなければならないという状況はあまり好ましいものではありません。
これらの2点から、トイレは寝床と同じサークル内にあるのもよくないですし、かといって隣の部屋まで離すこともよくありません。
私は、寝床のサークルから人の歩幅で3~4歩くらいの距離感の場所にトイレを設置ことをお勧めしています。
はみ出さないトイレ環境にすることから始める
今回の相談では、「トイレの場所は認識できているけれど、トイレの隅にオシッコしてしまってはみ出てしまう」ということでしたが、おそらく平たい台のような形状のトイレを設置しているのではないかと想像しています。
このようなトイレは取り扱いが簡単ですし、お掃除やお手入れも楽で便利なのですが、まだ上手にトイレができずにはみ出してしまう子犬であれば、もう少し工夫が必要かなと思います。
たとえば、トイレをはみ出す対策としては、トイレ用のケージを作ることがおすすめです。
犬のトイレの周辺を囲うことは排泄のはみ出しの改善には非常に効果的で、また、隅でオシッコをしてしまうのであれば、トイレケージの隅にも受け止めるためのペットシーツを敷き詰めるのも効果的です。
実際にトイレが上手にできない子犬のためにトイレケージの壁にペットシーツを貼る方法もあります。 犬の習性として、一度排泄した場所に繰り返し排泄をする性質があるので、オシッコのニオイのついたペットシーツをトイレの中心に敷くことも効果があるのではないかと思います。
犬のしつけは褒めるのみ!
十数年前のカリスマドッグトレーナーの古い映像などを見ていると、犬を怒鳴りつけることはおろか、ムチで犬を叩くような方のレクチャーなども目にします。
当時若かった私もそんなしつけ方を見てしつけも大変だなぁとあ然としていた覚えがありますが、獣医学生、獣医師として行動学を学んでみると、あれらのしつけ方がとんでもなく間違った方法なんだと知って驚きました。
犬のしつけで叱ることがいけない理由について、私はいつも「動物は文脈がわからない」と説明をしています。
私も小さい時はよく母に叱られましたが、叱られた理由が宿題をやらずに遊び呆けていたことだと認識できていました(笑)。しかし言葉の通じない犬ではそうはいきません。
トイレに失敗して叱られた犬は「ここでオシッコすると怒られる」「オシッコを人に見られると怒られる」と誤って認識することがあります。
実際に私の友人の家の犬はお布団の上でオシッコをしたことをこっぴどく叱られてから、室内で排泄をしないようになってしまいました。きっと「室内でオシッコをすると怒られる」と認識したのでしょう。
こういった実例からも、失敗に対して叱ることは基本的にどのような場面であってもよくないことだと考えてください。
今回のカイくんの場合は、先程お話ししたように囲まれたトイレで、はみ出さずにトイレができたらすぐに褒めて、ペットシーツからはみ出さずに、こぼさずにトイレをすることがよいことだと認識させてあげましょう。
褒めるときも同様に犬は「文脈」を認識することはできません。
時間が経ってから褒めると、犬はどの出来事について褒められているのかわからないことから、できたらすぐに褒めるという点は全てのしつけにおいて重要です。トイレトレーニングの期間中は上手にトイレができたらすぐに褒めてあげるようにしましょう。
トイレトレーニングの際にご褒美のおやつを少しだけ与えることも効果的ですが、おやつの与えすぎには気をつけましょう。また、できたらすぐに褒めるためにはトイレの近くにおやつを準備することが必要ですが、くれぐれもワンちゃんの手の届く場所に置かないように気をつけましょう。
愛犬のトイレの問題で気になることや、おうちのワンちゃんの様子がおかしいと思った際にはかかりつけの獣医師に相談するようにしてください。
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