【獣医師コラム】犬の歯周病と自宅でできるデンタルケアについて

健康

口臭が気になる、歯が汚いなど、歯周病に関連した主訴は、最も多い受診理由の一つです。近年、歯周病は全身性疾患(心疾患、腎疾患、肝疾患など)との関連も指摘され、デンタルケアに対する関心が高まっています。
今回は歯周病の病態と、自宅でできるデンタルケアについて獣医師が解説します。

犬は虫歯になりにくい?人と犬の違い

人で歯のトラブルというと虫歯ですが、実は犬が虫歯になることはほとんどありません。犬での口腔トラブルは、歯石付着による歯周病が中心となります。 その理由として、人と犬の口内環境の違いがあげられます。

人と犬では口の中のペーハー(pH)が異なります。人は弱酸性なのに対して、犬はアルカリ性です。そもそも虫歯とは、酸性の環境下で虫歯菌が糖を発酵させて酸を作り、その酸が歯の表面を溶かしていくものです。犬の場合、口腔内がアルカリ性であるため、虫歯菌が繁殖しにくい環境になっています。 また、食性の違いから、人と異なり犬は唾液中にでんぷんを糖に分解するためのアミラーゼを持ちません。甘いものを食べない限りは、口の中に糖がとどまることはあまりありません。 また、人と犬では歯の形状が異なります。人の歯は、食べ物をすり潰して食べるために臼のような形をしています。そのために噛みあわせの歯の表面にくぼみが多く、そこに虫歯菌がたまります。一方、犬の歯はものを噛み切るために尖った形をしています。そのため、虫歯菌がたまるスペースが少ないと考えられます。

犬で多い歯周病とは

虫歯が少ない犬において圧倒的に多いのが歯周病です。 歯周病とは、歯垢中の歯周病原性細菌によって、歯の周辺組織に炎症が起こる病気です。この炎症を放置すると、歯肉から歯を支える歯槽骨などの深部まで炎症が波及することで、歯肉が後退し、歯がグラついたり、歯根部に膿が溜まったり、上顎骨を破壊して鼻血が出るなど、大きな問題を起こします。 また、これらの細菌は食べカスに含まれるたんぱく質を分解して嫌な臭いの原因となる物質を産生し、口臭が問題となります。

3歳以上の犬の8割

この歯周病は、なんと3歳以上の犬の約8割が生じているといわれており、さらに加齢とともにその発生率は高くなります。また、飼育犬では野生動物に比べ歯周病の発生率が高く、その理由として、食事内容や長寿化の影響があると考えられています。

食事との関係

ウェットフードやふやかしたドライフードなど軟らかいもの中心の食事や、硬い物を与えられることなく生活をしていると、歯垢が付きやすく、歯周病になりやすいといわれています。

硬い物を噛むことは、物理的に歯表面の歯垢をこそげ落とす作用と、咀嚼によって唾液の分泌を促進する作用があり、歯垢や歯石の付着が軽減し、結果的に歯周病になりにくくなると考えられています。

ただし硬すぎるものはNG

犬は顎の力が強いので歯も丈夫だと思っている飼い主様が多いのですが、実はそれほど強くありません。犬の歯のエナメル質の厚さは、人の1/3以下と言われています。 歯の健康のためと硬すぎるものを与えると、逆に歯が折れたり、擦り減ってしまう可能性があります。後半のデンタルケアの項目で詳しくお話ししますが、ガムなどを使用する場合は適度な硬さのものを選びましょう。

歯周病のなりたち

食事を食べたあとに歯を磨くことなく放置するとどうなるのでしょうか。まず、歯表面に歯垢が付きます。

歯垢とは

歯の表面に付着して蓄積する粘着性物質で、食べカスや細菌および細菌の代謝物から作られます。この歯垢が歯周病の根本的原因となります。ただし、歯垢の段階では、歯ブラシで磨くなど軽くこすることで歯から除去することができます。 しかしその猶予は短く、歯垢は2~5日程度であっという間に歯石に変化してしまいます。

歯石とは

ミネラル分を多く含む唾液や歯肉浸出液により、歯に付着した歯垢が石灰化することで生じます。犬の口腔内はアルカリ性であるため、人に比べて早くに歯石に変化してしまいます。歯石の表面は荒く多孔性であるため、さらにその上に歯垢が付きやすい状態となり悪化していきます。

この歯垢・歯石を放置すると

次第に歯垢内の細菌叢が厚くなり、これが歯肉辺縁に常に接するようになると、歯肉に炎症を引き起こし歯周病が生じます。歯肉は腫れあがり、歯との間に歯肉ポケットが形成されます。さらにこの状態を放置すると、歯表面の歯垢・歯石はさらに増加し、炎症は歯根周囲まで到達し、歯がグラついたり、膿が溜まったり、上顎骨を破壊して鼻血が出るなど、重大な問題を引き起こします。

歯石がついてしまったら

歯垢が歯石に変化してしまうと、残念ながら歯みがきで除去することは出来ません。スケーラーという金属製の器具などを使用しないと除去することが出来ないため、動物病院を受診しましょう。動物病院では超音波スケーラーを使用するのが一般的です。

自宅でできるケアを解説

まずは愛犬の口の中をチェック

本来、犬の歯は真っ白で歯肉はピンク色です。(ただし、色素の影響で黒い場合もあります)

歯の表面が黄色や茶色になっている場合には、歯垢や歯石が付着している可能性があります。また、歯肉が赤く腫れている場合には、歯肉炎を起こしている可能性があります。

こんな行動は歯周病の可能性

自宅でできるデンタルケア

歯ブラシを用いた歯みがき

自宅でできるデンタルケアの中で最も効果的なのはやはり歯ブラシを使った歯みがきです。 しかし、歯ブラシを使った歯みがきは難易度が高く、ましてやシニアなど成長した犬にある日突然行うのは容易なことではないと思います。 まず、正しい歯みがきのやり方について述べ、次に、歯ブラシが難しい場合に自宅でできるデンタルケアについて述べたいと思います。

歯ブラシを選ぶポイント

口の中を傷つけないよう、ヘッドが小さく、毛が軟らかめのものを選んで下さい。 犬用のブラシが販売されていますが、人間の子供用の歯ブラシでも構いません。

歯磨きペーストは?

歯みがきペーストを使用する場合は必ず犬用のものを使用して下さい。(人間用の歯みがきペーストには発泡剤やフッ素が含まれているため使用しないでください。) 実際には、歯ブラシに水を付けるだけでも構いませんし、歯みがきをはじめたばかりの時期には、慣らすために、好きな缶詰や食べ物の汁を付けて歯みがきをすると良いでしょう。

歯みがきを開始する時期は?

乳歯が生えそろう2ヶ月齢から開始するのが最も効果的です。その後、6ヶ月齢前後で永久歯に生え変わりますが、小さいうちから歯みがきに慣れさせることが重要です。 犬には歯みがきの意味や大切さはわかりません。口の中に異物を入れられて歯をこすられることは犬にとって不快なことです。しつけと同様に若いうちからしっかりトレーニングすることが成功の秘訣です。 高齢になってから歯みがきを開始する場合は、一度動物病院を受診して適切な治療を受けてから開始しましょう。歯ブラシを使用した歯みがきは難しいかもしれません。根気よく努力することが必要ですが、もし歯ブラシでの歯みがきが難しいようなら、ガーゼやシートを使用した歯みがきやデンタルガムなど併用してケアしていくのが良いでしょう。免疫力が低下してくる高齢期にこそ、しっかりとしたデンタルケアが必要です。

歯みがきの訓練

まず口に触れられることに慣れさせる

  1. 顔や口元を触る
  2. 口唇をめくり、犬歯や歯肉に触る
  3. 奥に指を入れ、奥歯を触る

静かな場所で、リラックスさせ、犬のペースに合わせて無理をせず、うまくできたらよくほめておやつなどを与えると良いでしょう。何回かこれを繰り返します。

ガーゼなどで歯をこすってみる

口の中を触らせてくれるようになったら、歯ブラシを使用する前にガーゼなどで歯をこする練習をしましょう。最初は優しくタッチするところから始めましょう。このときも無理をせず、じょうずに出来たら褒め、ご褒美をあげましょう。

歯ブラシに慣れさせる

ガーゼでの歯みがきがクリアできたら、歯ブラシを使ってみましょう。 まず歯ブラシに興味を持たせるため、犬用歯磨きペースト(味付き)を付けて舐めさせたり、犬が好きな缶詰や食べ物の汁を付けて臭いを嗅がせたり、歯ブラシ自体に慣れさせましょう。 歯ブラシに慣れたら、最初は動かさずに口に入れ、歯ブラシを優しく歯に当ててみてください。 何度もいいますが、焦らずゆっくり慣らして、じょうずに出来たらよく褒めてあげましょう。

実際に歯を磨いてみる

  1. 犬歯
  2. 奥歯
  3. 前歯
  4. 歯の裏側

歯ブラシを口に入れられるようになったら、ブラッシングにチャレンジします。 犬歯のブラッシング、次に奥歯、最後に前歯を磨いていきます。さらに難易度が高くなりますが歯の裏側までできるとさらに効果的です。 最初からすべての歯を磨くのではなく、一つずつクリアしていきましょう。前歯は特に敏感なところですので優しくブラッシングしましょう。 ポイントは愛犬がリラックスできる環境や姿勢で行うこと、上手にできたらおやつを与えるなど、よく褒めてあげることが重要です。歯みがきをしたらいいことがあると学習させましょう。歯ブラシを噛んでしまうこともあると思いますが、怒ってはいけません。飼い主自身が焦らず、毎日少しずつステップアップしていきましょう。

歯ブラシが難しい場合には

歯ブラシ以外での歯みがき

歯ブラシでの歯みがきができない場合には、ガーゼやシート、指サックやグローブなどで磨く方法もあります。この場合、表面の歯垢除去や歯肉のマッサージが可能ですが、歯と歯の間や歯と歯肉の間などの歯周ポケットの歯垢除去は出来ません。

デンタルガム

前述のとおり、犬の歯はそれほど強靭ではありません。デンタルケアという観点からは硬いものよりも適度な弾力性があるものの方が好ましいと考えられています。またガムなどのデンタルケア製品は、犬が長時間噛み続けられるように、形状や物性を考慮しているものがあります。長時間の咀嚼には唾液の分泌を促進するというメリットがあります。唾液が分泌されると、歯からそぎ落とされた歯垢を洗い流されやすくなります。また歯垢や歯石の蓄積を軽減する機能性成分が含まれるものもあります。歯垢・歯石のコントロールには毎日の歯みがきが一番ですが、それが行えない場合にはデンタルガムが愛犬のデンタルケアに大きく役立つでしょう。 また、歯ブラシと併せてデンタルガムという方法もおすすめできます。

ドライフードへの変更

噛んで食べることで物理的に歯垢を物理的に落とし、咀嚼による唾液分泌促進が期待できます。ただし、噛まずに丸飲みしてしまうと全く効果はありません。

サプリメント

タブレットやごはんにふりかけるような粉末、液体タイプなど様々存在します。口腔内善玉菌を増やし、口臭軽減や歯周病の進行抑制作用が目的ですが、物理的な歯垢除去は出来ません。

自宅でのスケーラーの使用は?

獣医師が、飼い主様自身が自宅で行うスケーリングを推奨することはありません。 前述したとおり、犬の歯はエナメル質が人の1/3以下といわれ、また、歯肉縁の下はエナメル質がなく、金属製のスケーラーで簡単に表面が削れてしまいます。もし削りすぎてしまうと知覚過敏の原因になったり、歯に凹凸ができることでさらに歯垢が付きやすくなってしまいます。 金属製の器具の使用には熟練が必要ですので、歯石の除去が必要な場合は動物病院への受診をおすすめします。

最後に

人と同様、犬でも予防医療が注目されています。愛犬がいつまでの自分の歯とともに、長く健康でいられるようにデンタルケアに今一度取り組んでみてはどうでしょうか?本稿が飼い主様方の手助けとなれば幸いです。

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獣医師田中先生

獣医師田中先生

日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科2009年卒業。在学中は獣医放射線学教室神経班に所属し神経病学と画像診断学について学ぶ。 卒業後、地元である埼玉県所沢市にある所沢アニマルメディカルセンターに勤務。現在は同院の副院長を務めている。 得意分野は一般内科、神経科、軟部外科、整形外科。今年で臨床10年目、節目の年を迎え、日々進歩する獣医療において幅広い知識を身に付け、治療を必要とする動物とその家族が最良の選択が出来るよう、常に一流のジェネラリストに近づけるよう日々勉強中。 趣味は釣り、筋トレ、石集め、滝巡り。私生活では一児の父、4匹の猫と賑やかに暮らしている。

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