犬は人に対してどのような影響を与えてくれる存在なのだろうか。人の心を読み取ろうとする犬が子どもや大人に与えてくれるものは大きなものです。特に子どもとって犬は思いやりや優しさを持つことの大切さを教えてくれる貴重な存在であるとも考えられています。人間と犬との関係の素晴らしさと専門家の研究について獣医師Tが解説します。
イギリスのことわざから人と犬の素敵な関係について考える
イギリスの古いことわざに「If your child is born, have a dog(子供が生まれたら犬を飼いなさい)」というものがあります。ことわざの中では、
子どもが赤ん坊のときには、彼は子どもの良き守り手となるでしょう。
子どもが幼いとき、彼は子どもの良き遊び相手になるでしょう。
子どもが少年のとき、彼は子どもの良き理解者となるでしょう。
そして子どもが大きくなったとき、彼が先に亡くなってしまうことは子どもに命の尊さを教えるでしょう。
と書かれています。
最後まで読むとちょっぴり寂しいことわざですが、純粋に育っていく子どもと犬の友情や愛情が伝わってくる温かいことわざですよね。
子どもにとっての良きパートナーとしての愛犬との関係は非常に微笑ましいものに思えますが、実際には子どもができたことで犬が飼えなくなったと保健所やシェルターに送られてしまう犬も多いのが現状です。
たしかに、正しく犬を飼うことは時間的にも経済的にも大きなコストを必要としますが、飼い主としての責任を果たしてもらいたいものです。
個人的な感想ですが、犬の一生は決して長いとはいえません。その限られた時間のなかで愛を育み、心を通わせることはとっても素敵なことですよね。
しかし、私がいくら素敵と語っても、ただの感想にすぎないので、今回の記事では、人と犬の関係性が私たちにどのような心理的なメリットを与えるかについて、専門家の研究とともに一緒に勉強していきましょう。
飼い主にとって愛犬は我が子同然の存在
他の動物を飼育する動物というのは、私たちヒトだけだといわれています。
そもそも、なぜヒトは他の動物を飼育するのでしょうか?
哲学的ではありますが、発達心理学の分野では「ヒトがなぜペットを飼うのか」という問いの答えは、ヒトが「心的な観点」からものをみることができる生き物であるからだと考えられています。
少し難しい言葉ですが、ヒトはペットのことを物質的な存在以上に自分と関係性を持つ「心を持った存在」として認識することができるということです。
この「心」を認識しやすいことは犬や猫の特徴であり、同じペットでも小動物や鳥よりも犬猫の方が人間にとって「心」を感じ取りやすい存在だといわれています。
また、ペットと飼い主のコミュニケーションについて研究した心理学の専門家によると、飼い主のペットへの声かけはペットの「心」を読み取ろうとするような性質のものが多く、人間同士の会話のキャッチボールのようなものではなく、相手の気持ちを推し量ろうという優しさに満ちたものなのだそうです。
そして、このコミュニケーションの様式は幼い子どもとのやりとりのなかで、子どもの「心」を読み取ろうとする話し方と非常に似ているのだそうです。
近年では、愛犬のことを家族の一員として接したり、愛玩動物ではなく伴侶動物と呼ぶ習慣が社会に広まっているように思いますが、発達心理学的な観点では、愛犬にかける愛情はまさに我が子に対するものと同じなのです。
犬と暮らす愛犬家は会話上手?
犬と猫とのコミュニケーションでは、人間の子どもと同様に相手の「心」を汲み取ろうとする、という心理学的な見解についてお話ししてきましたが、では、犬と猫ではコミュニケーションの取り方に違いがあるのでしょうか?
私自身、獣医師としてこれまで多くの犬猫の飼い主さんと接してきました。これは、あくまで個人的な見解として感じていただければと思いますが、これまでの経験として、犬派の方は犬っぽい性格で、猫派の方は猫っぽい性格が多い!という持論を持っています(笑)
犬っぽい性格だから犬を飼うのか、それとも一緒に過ごす時間が長くなると性格が似てきてしまうのかは分かりませんが、やはり犬派と猫派の飼い主の間には性格的な違いがある気はします。
実際に犬の飼い主と猫の飼い主におけるペットとのコミュニケーションを記録した実験では、犬の飼い主は愛犬との会話の中で何かを伝えて、その反応をもらうような関係性のある言葉を投げかけることが多かったそうです。
一方で、猫の飼い主は愛猫に話しかけて猫が無反応であったりそっぽを向いてしまっても、その無反応を顔やしっぽの動きで解釈して、会話を進めてしまうような言葉の投げかけが多い傾向にあったそうです。
このことに対して実験を行なった研究者は、犬の社会性が関係していると解釈しています。
他の動物と比較してみると、犬は群れの中のコミュニケーションを大切にしている分、表情や体の動きでの意思伝達が上手で、人間とも心を通わせやすいという特徴があるようです。
たしかに、よく考えてみると、犬のように表情やボディランゲージで気持ちがわかる動物というのは珍しいのかもしれませんね。
愛犬と過ごすことでヒトの心を育てることができる
ここまでは愛犬とのコミュニケーションについて紹介してきましたが、次に、「愛犬との生活を通して私たちにも変化があるのか?」先に紹介したイギリスの古いことわざのように「犬は子どもの成長を支えるパートナーになることはできるのか?」ということについて考えていきましょう。
日本における子どもの成長とペットの関係は、発達心理の目線から研究が進んでいて、子どもにとってペットとともに過ごすことは、感情の発達に良い影響を及ぼしているといわれています。
そのなかでも、特に犬は子どもにとってペットとして育てる対象としてのみでなく、自分の行動に対して感情表現の反応を与えてくれるコミュニケーションの相手として重要な役割を持っていて、他者への思いやりや優しさを持つことの大切さを教えてくれる貴重な存在であるといわれています。
また、冒頭のことわざにもあるように、幼い子どもにとって犬は危険から身を守ってくれる存在でもあります。愛犬が幼い子どもを守ったというニュースなどをよく見かけることがありますよね。
驚くべきことに、縄文時代の貝塚や古墳では、子どもの遺体のまわりに犬を一緒に埋葬していることが多いのだそうです。古来から犬は子どもを愛し、守ってくれるパートナーとして認識されていたのかもしれませんね。
子どもと犬の関係についてお話を進めてきましたが、愛犬との生活が良い影響を与えるのは子どもだけではありません。
大人も愛犬と触れ合うことでストレスが軽減されることが研究でわかっており、犬とのふれあいで血圧が安定したり、心臓病患者では犬を飼っている方が余命が長いという研究結果もあります。
こうして良い影響を挙げてみると、私たちがいかに愛犬に幸せにしてもらっているかということが分かってくるかと思います。
今回は、人間と犬との関係の素晴らしさについて専門家の研究についてお話ししました。
愛犬との素晴らしい関係を築くためには、しつけをはじめとした犬の飼い方について、飼い主として正しい知識を身につけることが欠かせません。
獣医師Tのコラムでは、ドッグライフのさまざまなポイントで役立つ知識を発信していきます。愛犬とともに幸せに暮らすためにはどうしたら良いのかを一緒に考えていきましょう。
愛犬との素敵なドッグライフを送るための参考にしてください。
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