狂犬病は狂犬病ウイルスに感染することで起こる病気で、主にウイルスを保有している動物に咬まれたりひっかかれることで傷口から感染し、発症すると致死率はほぼ100%といわれます。狂犬病は動物から人にも感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)です。狂犬病の症状から予防、狂犬病予防注射を毎年受ける理由について解説します。
狂犬病は人にも感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)
狂犬病は、病名に「犬」という文字が入っているため、犬特有の病気に見えますが、狂犬病はすべての哺乳類が感染する病気で、狂犬病ウイルスに感染することで発症します。
狂犬病は人獣共通感染症(ズーノーシス)であるため、人を含めた全ての哺乳類に感染する恐れがあり、どの哺乳類でも致死率はほぼ100%と、とても恐ろしい病気です。
狂犬病の原因
狂犬病に感染した動物の唾液中には狂犬病ウイルスが存在します。感染した動物が、他の動物に噛み付くことで傷口から唾液が入り込むことで感染するのが、狂犬病ウイルスの感染経路です。
傷口からウイルスが体内に侵入すると、末梢神経や中枢神経などへ広がって障害を起こします。
また、臓器移植などの例を除いて、基本的には感染した人から人への感染拡大はないといわれています。
犬に現れる狂犬病の症状
犬が狂犬病に感染した場合、潜伏期間は2週間~2ヶ月とされています。
狂犬病の症状は、一般的にイメージされやすい攻撃的な行動が特徴の「狂騒型」と、その反対の周囲の刺激などに対して反応が弱くなる「麻痺型」に分かれます。
犬の場合、約8割は狂騒型の症状がみられるといわれています。
狂騒型の症状は、3段階に分けられます。
1.犬に現れる狂犬病の症状【前駆期】
【症状】
・発熱
・食欲不振
・性格の変化
・異常行動など
【性格の変化の例】
・普段人懐っこい犬が急に攻撃的になる
・攻撃的だった犬が従順になるなど
【異常行動の例】
・暗い場所に隠れるなど
2.犬に現れる狂犬病の症状【狂躁期】(2~4日程度)
【症状】
・顔つきが狂暴になる
・非常に攻撃的になる
・よだれを垂らす
・目が据わる
・常に吠える
・目の前にあるものに咬みつく
・水を異常に恐がる
・異物を食べる(小石などの食べ物以外のもの)
・興奮状態が続き、光や音に突然刺激に対する敏感な反応をしめすなど
この狂躁期はまさに“狂犬”のような症状が現れ、様々な物に噛み付いて狂犬病を感染させていくため、最も恐ろしい段階と言えます。
また、狂犬病の特徴的な症状のひとつとして、水を異常に恐がることから「恐水症」ということもあります。
3.犬に現れる狂犬病の症状【麻痺期】(数日)
【症状】
・動けなくなる
・大量のよだれが垂れ流しになる
・痙攣
・全身の麻痺症状や昏睡など
この症状が出ると数日で死に至るといわれています。
また麻痺型は、前駆期の後、麻痺期の症状がみられ、発症から数日で昏睡状態となり、死に至ります。
人に現れる狂犬病の症状
人が狂犬病に感染した場合、潜伏期間は1カ月~3ヶ月とされています。
【人に現れる狂犬病の症状】
- 全駆期:発熱・食欲不振・咬傷部の痛みやかゆみ
- 急性神経症状期:不安・恐水症(水を飲みこむとき強い痛みを感じるため水を極端に恐れるようになる症状)・強風症(風の動きに過敏に反応し避けるようなしぐさをする症状)・興奮症・麻痺・幻覚・精神錯乱など
- 昏睡期:昏睡、呼吸障害などがみられます
狂犬病の有効な治療法はまだない
残念ながら現在、世界中のどの国の医療でも狂犬病に有効な治療法はありません。ただし、狂犬病発症地域で犬やコウモリなどの動物に噛まれて感染した可能性のある場合では、発症する前であればワクチンの連続接種(暴露後ワクチン接種)にて発症を予防することができるといわれています。
人や犬をはじめとする全ての哺乳類は、狂犬病に発症すればほぼ100%死に至るため、狂犬病の感染を予防するしか方法はありません。
狂犬病を予防するためには、狂犬病予防注射を行う
犬の狂犬病を予防するには「狂犬病予防注射」を行う必要があります。
日本では、「狂犬病予防法」というものがあり、以下のことが義務付けられています。
・飼い犬に狂犬病予防注射を受けさせる
・飼い犬登録を行う
予防注射を受けさせるのは1年に1回、生後3ヶ月以上の全ての犬が対象となります。
しかし、健康でない状態の犬に予防注射を受けさせると、かえって危険な状態に陥ることもあります。犬に持病がある場合などは、獣医師の判断により予防注射やワクチンが免除されることもあります。
獣医師の判断によって狂犬病予防注射が見送られ「狂犬病予防注射猶予証明書」が発行された場合、飼い犬登録を行っている市区町村の窓口などに証明書を提出することで、その年の狂犬病ワクチンは免除されます。
狂犬病予防注射猶予証明書が発行されるケースは、以下のようなものがあります。
・過去に狂犬病予防注射でアレルギーや体調不良などを起こしている
・重度のアレルギー体質
・闘病により体力が低下している
・高齢のため体力や免疫力が低下している
・がんなどの治療中または抗がん剤などの免疫抑制剤を使用している
愛犬に持病などがある場合は、狂犬病予防注射が接種できるか、かかりつけの獣医師に相談することをおすすめします。
飼い主の義務である愛犬の飼い犬登録を行う
飼い犬登録と、飼い犬への鑑札・注射済票を装着させることは飼い主の義務です。
飼い犬登録は、現在住んでいる市区町村ごとに行います。
犬の所有者を明確にすることで、どの地域にどれくらいの犬が飼育されているかを把握し、万が一狂犬病が発生した場合、その地域において迅速で的確な対応が取れるよう管理されています。
飼い犬登録をすると「鑑札」、狂犬病の予防注射をすると「注射済票」がもらえます。
この2つは、それぞれの義務をちゃんと果たしたという証明や標識になるため、愛犬の首輪にしっかり装着しておきましょう。
また、飼い犬登録を行うと、犬1頭につき1つの登録番号が与えられます。鑑札にはその登録番号が記載されているため、万が一迷子になった場合、捜索の手助けのひとつとなります。
ひと昔前までは、四角や楕円形の鑑札や注射済票が多かったのですが、最近では市区町村ごとに工夫されていて、ワンちゃんやハート、家の形など可愛いデザインのものが増えてきています。
日本の狂犬病の現状
赤の国と青の国、このふたつの違いが何か分かりますか?
この地図は、赤は狂犬病が発生している国、青は狂犬病が発生していない国を示しているのです。
狂犬病が発生していない国を「狂犬病清浄国」といいます。
全世界で狂犬病清浄国は、日本を含め、日本、ハワイ、グアム、フィジー諸島、オーストラリア、ニュージーランド、アイスランドと全て島国のわずか7ヶ国しかありません。(2013年7月現在)
数少ない狂犬病清浄国である日本は、外国から狂犬病が国内に入ってくることを予防することが大切です
海外に行く際は、その地域で狂犬病がどのくらい流行っているのか、どの動物に注意すればいいのかなど事前にしっかり調べ、狂犬病の感染が報告されている地域では、野犬などに触ろうとしないことを徹底する必要があります。
日本では現在、狂犬病は発生していない
日本では1950年以前は、まだ狂犬病予防法が制定されていなかった時代では、日本国内でも多くの犬が狂犬病にかかり死亡し、人も同様に狂犬病に感染して命を落とす事例が少なくありませんでした。
1950年に狂犬病予防法が施行されてから7年後の1957年には、日本国内から狂犬病が撲滅されています。
2020年に日本国内で狂犬病で亡くなった例が発生していますが、これは国内で感染したのではなく、フィリピンから入国した外国籍の方が狂犬病を発症した事例で、輸入感染症例といいます。
日本国内での人の狂犬病発症例は、1956年を最後に発生しておらず、動物では1957年、ネコの感染を最後に狂犬病は発生していません。
狂犬病が多い国は?
世界保健機関(WHO)の発表によると、2017年の狂犬病発生状況は、年間で59000人。アジア地域の感染は35000人、アフリカ地域の感染は21000人とされています。
狂犬病が多く発症している国は、中国、ミャンマー、フィリピン、インドネシア、パキスタン、インド、バングラデシュなどがあげられています。
厚生労働省より海外での狂犬病の感染防止対策として
昨今はコロナウイルス感染の影響があり、海外旅行に行きにくい状況ですが、厚生労働省では、狂犬病の感染事例が多い国に渡航する場合、事前に狂犬病の予防接種を検討することもひとつの予防方法だと提案しています。
また、狂犬病が多く発症している国で犬やコウモリなどの動物に噛まれた場合は、速やかに現地の医療機関を受診し、傷の手当と狂犬病のワクチン接種を行うことを推奨し、帰国後は検疫所に相談することをすすめています。
最後に
狂犬病は発症するとほぼ100%死に至る、とても危険な感染症です。治療法はないため、しっかり予防することがとても重要です。
日本では狂犬病予防法により、1年に1度飼い犬への「狂犬病予防注射」の接種が義務付けられています。愛犬の狂犬病予防注射はなぜ行うのか、犬の飼い主として感染予防の意味をしっかり理解しておくことが大切ですね。
日本では長期間、狂犬病の発症は確認されていませんが、世界では今でも狂犬病により亡くなっている方が大勢います。少しでも狂犬病についての知識を深めていただけたら幸いです。
今回は、狂犬病についてお話ししました。
参考資料:
・厚生労働省 狂犬病
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/
・厚生労働省 狂犬病に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/07.html