犬の血液型は人間の種類よりも多く13種類以上あるといわれています。もし、事故や手術で犬に血液が必要となったときは人と同じように輸血を行いますが事前に血液型の判定や検査が必要です。犬の輸血や献血ドナー(供血犬)を希望する場合の流れを解説します。
犬の血液型は13種類以上ある
私たち人間の血液型は、ABO式(A型、B型、O型、AB型)の4種類がありますが、犬の身体の中にも人と同じように血液が流れていて、血液型があります。
犬の血液型は、英語表記”Dog Erythrocyte Antigen”の頭文字を取った「犬赤血球抗原」という意味の略称のDEA式で分類されます。
DEA式による犬の血液型の分類
DEA式による分類では、犬の血液型は、DEA1.1〜DEA13まで13種類以上あるといわれていますが、まだ研究段階で詳しい解明にはいたっておりません。
現時点で世界的に認められている血液型は8種類ですが、日本ではDEA1.3を含めた9種類で分類されることもあります。
- DEA1.1
- DEA1.2
- DEA1.3
- DEA3
- DEA4
- DEA5
- DEA6
- DEA7
- DEA8
この血液型に、抗原を持っているかそうでないかの検査で陽性(+)陰性(−)を調べると、さらに詳しい血液型に分類することができます。
犬は血液型を1種類でなく複数持つことができる
犬の血液型は、血液中に存在する赤血球の表面に存在している犬赤血球抗原の種類によって分類されるといっても、その数は1頭に1種類だけではなく、複数の犬赤血球抗原を持つことができるため犬は、複数の血液型を持つことができます。
DalやKaiという新しい抗原も見つかっている
その他にも新しい研究では、DalやKaiという赤血球抗原もあることがわかっています。こういった新しい発見からも、犬の血液型の分類は人と比べるととても複雑です。
犬の輸血はケガや病気、手術の際に行われることが多い
もし、愛犬が交通事故などによるケガや病気、手術などによって血液が不足する状態になってしまったら、人と同じように輸血という方法を使用して足りない血液を補充する必要があります。
例えば、ケガや病気による手術で輸血が必要となる場合は、大量出血を補うために行われるものです。
散歩中に落ちていたガラスなどを踏んでしまった外傷、転落や交通事故などで腹腔内に内出血を起こしている場合なども、治療中に大量出血が起こる可能性があるため、輸血が必要になることがあります。
他にも輸血が必要なケースとしては、血液凝固異常や腎臓病、免疫介在性血小板減少症などの免疫疾患、溶血性貧血、誤食や中毒による貧血とそれに伴う嘔吐や下痢によって血液中のタンパク質が急激に失われてしまった場合などにも、血液の状態を正常に戻す効果を狙うために輸血を行うことがあります。
血液を輸血することを全血輸血、血液の成分である血漿や赤血球、凝固成分など、特定の成分のみを輸血することを成分輸血といいます。
犬の輸血には血液バンクのような献血システムはない
犬用の血液はストックができず、長期保存をするような環境が整っていないだけでなく、人用の血液バンクや献血システムのようなものがないので、万が一の時に血液を供給してもらう献血ドナー登録や供血犬登録という制度があります。
この制度はまだあまり浸透しているものではなく、動物病院関連の従事者が自分で飼育している犬を登録している場合が多いです。
また、動物病院では緊急時にすぐに輸血対応ができるように、供血犬として犬を飼育している場合や、かかりつけの動物病院が飼い主さんに対して供血犬のボランティア登録を依頼しているケースもあります。
献血ドナーや供血犬の血液が動物病院で確保できない場合は、飼い主さんが献血に協力をしてドナーとなってくれる犬を自分で探さなくてはならない場合もあります。
犬の献血ドナー(供血犬)登録の流れ
犬の献血ドナーは、ドナー登録とはいっても、人のように公的な機関やシステムは存在しません。かかりつけの動物病院や大学病院などを通して、輸血用の採血に協力してくれる飼い主さんが愛犬を登録するのが一般的です。
動物病院によってドナー登録の条件は異なりますが、献血ドナー(供血犬)になるには次の検査を行う必要があります。
- 年齢と体重の確認
- 血液検査
- レントゲン検査
- 尿検査
- フィラリア感染検査
- 血液型検査
- 前回の供血日の確認
これらの全てにおいて一定の基準を満たし、更に輸血経験がない健康な状態であること、1年以内に狂犬病予防接種や混合ワクチン接種を受けていること、フィラリア予防を行っていること、メス犬の場合は妊娠や出産経験がない、感染症にかかっていないなどの条件をクリアする必要があります。
ドナー登録を済ませると、輸血が必要になった場合に動物病院から連絡を受けて献血を行います。
献血を行う際の流れ
ここからは、基準を満たしてドナーの登録行った犬に、実際に緊急の要請があった場合の流れをご紹介します。
①事前に健康状態のチェックや血液検査が行われる
獣医師から要請があったドナー候補となる犬は、動物病院で身体検査と検査用の採血と血液検査を行い、体調を確認します。
事前に身体検査や血液検査を行い、血液型の判定や血液に異常がないか、輸血を予定している犬の血液との適合試験が行われます。
当日の体調を確認したら、実際に採血を行うか獣医師が判断します。
②輸血用の採血を行う
輸血を必要とする犬の体格や病状、採血を行う犬の体重によって採血量は変わりますが、おおよそ50mlから400mlを輸血用に採血します。
採血にかかる時間は約15〜30分ほどで終わりますが、ドナーとなって献血(供血)する犬は、採血時に毛刈りをすることと、おとなしい犬であればそのまま保定して首の太い血管のある頸静脈から採血を行いますが、ドナーとなった犬への負担やリスクはゼロではありません。
③献血を行うと健康チェックのサービスが受けられることも
献血をしたお礼は、現金の報酬の場合もあれば、次回のフィラリア検査やワクチン接種が無料になる、血液検査などの健康チェックが受けられるといった、犬の健康維持の為に必要なケア料金が無料になる場合もあり、動物病院によって対応は異なります。
ドナーとして献血を行った後は、次の献血までは倫理的に35日(約1ヶ月)の間隔をあける必要があります。
輸血を行う際の流れ
では、ここからはドナー探しを終えた後に、輸血を行う流れについてお話しします。
①事前に犬の血液型の判定とクロスマッチテスト(交差適合試験)が行われる
犬の血液型の判定とクロスマッチテストと呼ばれる血液の交差適合試験は、血液を提供する側と輸血を受ける側にとっても大切なチェック項目です。
ドナーとなる犬と輸血を受ける犬、双方の血漿と赤血球を使って交差試験が行われ、輸血の適合性があるかのチェックをします。
②輸血が必要な犬の健康状態のチェックを行う
血液型の判定とクロスマッチテストを行い、当日、輸血を予定している犬の健康状態を確認した上で、輸血治療(全血輸血または成分輸血)を実施するかの判断が行われます。
③輸血を行う
輸血中は、犬の呼吸や嘔吐がないか、重篤な副反応がないかなどを確認しながら時間をかけ点滴で行われます。
初めて輸血をする犬はどの血液型でも輸血は可能
犬の血液型は種類が多いため、輸血をするときはその犬に合う血液を用意するのが大変だと思われがちですが、犬の血液はいくつかの血液が混ざりあって構成されているので、ドナーを見つけることができれば、使用する血液を用意することはそれほど難しいことではありません。
犬の血液は「自然異系抗体」を持たないため、初めて輸血をする犬の場合に限っては、どの種類の血液でも使用することができますが、拒絶反応が起こるリスクは十分に考えられます。
2回目以降の輸血は注意が必要
ただし、2回目以降に輸血を行う場合には、その犬に合った血液を使用しないと、不適合反応(副反応)が出ることがあります。
重篤な副反応では、命に関わることもあるので、2回目以降の輸血では、ドナーとなる犬と輸血を受ける犬の血液型の判定と、クロスマッチテストをしっかり行った上で、適合する血液を使用する必要があります。
輸血の副反応でみられる症状
犬に輸血を行った際にみられる副反応は、さまざまなものがあります。
例えば、輸血後の発熱、嘔吐、脈の乱れ、蕁麻疹、かゆみ、アナフィラキシーショック、心臓発作、溶血によるヘモグロビン血症、腎不全、黄疸などの副反応が起こることがあります。
輸血はプラスとなることばかりではありません。リスクを考慮した獣医師の判断と飼い主さんの同意によって行われます。
犬に輸血を行う際のメリットとデメリット
愛犬の命を助けるための輸血ですが、犬の輸血を行う際にはメリットもあればデメリットもあります。
輸血を行うメリット
輸血のメリットは、愛犬に命の危機が生じるような緊急時に、命を助ける可能性があることです。
輸血を必要とするケガや病気の場合は、一刻を争うような緊急事態であることが多いです。このような症状の時に輸血という方法がなければ、犬は命を落としてしまうかもしれません。
輸血によって状態が回復できるケースも多く、血液が確保できるのであれば、輸血は犬の命を救うためにも必要な選択肢の1つです。
輸血を行うデメリット
犬に輸血を行う際の大きなデメリットは、人と同じで輸血による拒絶反応が起こる可能性があることです。
輸血を行う際には、事前にクロスマッチテストを行いますが、それでも輸血後に血液が身体の中で抗原抗体反応という拒絶反応を起こす場合があります。
この場合は、心臓発作などを起こす可能性もあるため、輸血を行う場合には獣医師からしっかりと説明を聞いた上でリスクを承知しておく必要があります。
動物病院によっては、輸血のリスクがあることを確認したという同意書を作成するところもあります。
日本の技術で犬猫の人工血液の開発が進んでいる
現在、日本国内では、国際宇宙ステーション「きぼう」の日本実験棟で、中央大学とJAXAによる犬と猫の人工血液の共同研究が行われるなど、イヌ用の人工血液の開発が進んでいます。
実用化が進めば、獣医療のさらなる充実と、犬猫をはじめ多くのペットの命を救うことができるようになるはずです。
最後に
犬が輸血を行う時にはリスクもありますが、輸血を行うことが命を救うためにできる最善の方法であるケースもあります。
しかし、輸血が必要になっても、ドナー犬や供血犬の不足、輸血用血液の不足によって助けることができない命もあります。
「お互い様や助け合い」といっても、犬には小型犬から大型犬まで種類があり、献血できる体重の条件を満たすのは中型犬〜大型犬に限られてしまうこともドナーが増えない理由のひとつといえるでしょう。
犬のドナー登録には賛否両論があります。また、飼い主さんへの協力のお願いなどボランティアで成り立っているのが現状です。
しかし治療のために輸血を必要としている犬たちがいること、輸血で助けることのできる命があるということを知っておくことは大切なことです。
今回は、犬の輸血についてお話ししました。
<参考文献>
中央大学理工学部応用化学科 生命分子学研究室「動物用人工血液の開発」
JAXA宇宙航空研究開発機構 宇宙ステーション・きぼう広報情報センター「イヌ用人工血液の合成と構造解析に成功 輸血液不足の解消に期待、世界で需要」
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