犬や猫が感染症にかかったとき、原因となる菌が薬剤に耐性を持っている「薬剤耐性菌」であると、薬が効かないことで症状が悪化したり、治療が難しくなってくることがあります。
薬の耐性化が深刻な犬猫の感染症に対して、新しい感染症治療法であるファージセラピーを実用化する研究が、ヒトの感染症の検査や研究を行う医療法人社団予防会と早稲田大学との協同で進められているそうです。
現在、医療法人社団予防会が、感染症に苦しむ犬猫のための研究についてクラウドファンディングを行っているとのこと。ドッグパッドでは、どのような研究が行われているのかを取材しました。※本記事は獣医師 村山信雄先生の監修のもと作成しました。
薬が効かない?!「薬剤耐性菌」とは?
ヒトの医療でも動物の獣医療でも、「薬剤耐性菌」という言葉を耳にする機会が増えてきたといわれています。薬剤耐性菌とは、抗菌薬(抗生物質)が効かない、あるいは効きにくい細菌のことで、感染症がこの薬剤耐性菌によって不治になりうることがあるそうです。
医療法人社団予防会と早稲田大学が協同で行う研究のクラウドファンディングが行われている
この薬剤耐性菌によって不治となりうる膿皮症や外耳炎、膀胱炎などの細菌による感染症に苦しむ犬を助けるために、現在、医療法人社団予防会では、クラウドファンディングサイトREADYFORにて、2022年6月17日まで感染症治療の研究費を募るクラウドファディングを行っています。
「感染症に苦しむ犬猫たちを救うために、感染症治療法の研究を」プロジェクト詳細
現在、医療法人社団予防会では、国内大手のクラウドファンディングサイトREADYFORで、耐性化が深刻な犬猫の感染症へ、新しい感染症治療法であるファージセラピーを実用化する研究に不足している研究費を獲得するためのクラウドファンディングを行っています。目標金額は150万円です。
クラウドファンディング名 : 感染症に苦しむ犬猫たちを救うために、感染症治療法の研究を
READYFOR内、プロジェクトURL: https://readyfor.jp/projects/yoboukai2022
目標金額:150万
期間 :2022年4月25日10時-6月17日23時
目的 :耐性化が深刻な犬猫の感染症へ、新しい感染症治療法であるファージセラピーを実用化する研究を行っています。不足している研究費を獲得するために、クラウドファンディングを開始します。
使途 :犬猫の感染症へのファージセラピー研究を進めます。実用化に最適なファージの探索を行い、論文化まで行い、さらに資金が獲得できれば、ファージを実際に実用するために必要な性質の確認(安定性試験など)を行います。
クラウドファンディングを行った経緯とは?
今回のクラウドファンディングでは、犬や猫の感染症研究のために研究費を募るというプロジェクトですが、では、実際にどんな研究が行われているのでしょうか。ドッグパッドでは、医療法人社団予防会(以下予防会)にお話を伺いました。
ヒトの医療では感染症において薬剤耐性菌が急増している
――医療法人社団予防会は、そもそもどんな研究をされているのでしょうか?
予防会:「医療法人社団予防会は、日本各地にクリニックがあり、性感染症検査や治療を中心に、また感染症の研究を行っている団体です。
性感染症含めヒトの感染症においては、薬が効きにくい菌(薬剤耐性菌)が急増しており、2050年には薬剤耐性菌による感染症の死亡が世界第一位の死因となると予想されています。
性感染症においても、例えば、淋菌に対する第一選択薬の耐性菌が増加しており、第一選択薬の単独での治療は困難であると、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)から発表されるに至っています。
このような状況の中で、予防会グループの1つである新宿サテライトクリニックの院長を務める北岡を中心として、早稲田大学と協同で新しい感染症治療法の研究開発に取り組んでいます。」
獣医師の協力を得て、感染症の新しいファージセラピーに着目した研究がスタート
――感染症の研究についてもう少し具体的に教えていただけますか?
予防会:「現在、研究の中で注力しているのが、ファージセラピーという治療法の実用化です。
ファージセラピーとは、バクテリオファージという細菌にのみ感染する生物を用い、感染症を引き起こしている細菌を死滅させて感染症を治癒する治療法です。
実は、ファージセラピーは、1920年代に実際に使用されていました。抗生物質の隆盛により廃れていましたが、昨今の薬剤耐性菌の増加に伴い見直されています。
さまざまな検討を重ねた結果、映画「犬部!」のモデルとなった、保護犬猫活動の第一線でご活躍されているハナ動物病院院長の太田快作先生と国内で数人しかいないアジア獣医皮膚科専門医である犬と猫の皮膚科院長の村山信雄先生のご協力を得て、ヒトからでなく、まずは、犬猫の感染症に対するファージセラピーの実用化を目指すことにしました。」
――犬や猫でも薬剤耐性菌による感染症が起こるのでしょうか?
予防会:「ヒト同様、犬や猫においても、薬剤耐性菌の増加は著しく、悲惨な状況です。特に膿皮症と呼ばれる皮膚感染症において、薬剤耐性菌が67%を占めているという報告があります。研究協力いただいている太田先生や村山先生の実際の診療現場でも、動物病院で使用できる薬が何も効かず、治癒しない場合があるということです。」
研究費の確保のためにクラウドファンディングをスタートさせた
――クラウドファンディングをはじめるきっかけは?
予防会:「昨今、製薬会社はコストが見合わないなどの理由から新しい感染症治療薬の開発を行わなくなってきていることから、医療機関として独自に開発をする必要があります。しかし、予防会だけでは規模が小さく、研究費という面で苦労しており、今回、研究費を確保するためにクラウドファンディングをはじめることとなりました。」
犬や猫、そしてヒトへ、今後の感染症研究について
最後に、犬や猫、ヒトの感染症研究の今後の展開についてお聞きしてみました。
不治となりうる膿皮症や外耳炎、膀胱炎などの細菌による感染症になるとどうなる?
――抗生剤などの薬剤が効かないなど、犬や猫の感染症が治りにくくなってしまうとその先はどうなってしまうのでしょうか?
予防会:「犬や猫の感染症に対して、このまま何も対策ができないまま時間が経過すると、犬や猫は感染症が治らないことにより、痛みや痒みが止まらなくなります。夜も十分に寝ることができず、一日中しょんぼりしているという可哀想な犬や猫が多発するようになってしまいます。このファージセラピーが実用化できれば、そのような未来を防ぐことができます。」
ファージセラピーの今後の研究について
――研究の今後の抱負など、お話しいただけることがあればお願いします。
予防会:「ファージセラピーの研究は国内外で進められていて、海外では実用化されていたりもしますが、理工学的な研究が中心なこともあり、臨床現場にマッチしていません。この研究は、実際に臨床現場で働いている医師・獣医師が主導で進めている研究であり、臨床現場にマッチしたファージセラピーの実用化ができます。
今後については、クラウドファンディングと研究を成功させて、犬や猫の感染症に対するファージセラピーの実用化を目指します。その後、他のさまざまな動物・ヒトにおける感染症疾患に対するファージセラピーの実用化も進め、ヒト・動物において感染症が不治の病となる未来を変えたいと思います。
今回のクラウドファンディングがスタートし、成功率90%の基準となる開始5日以内での20%以上の達成率をクリアしましたが、まだまだご支援が必要な状況です。みなさまからのご支援をお待ちしております。」
ーーありがとうございました!
医療法人社団予防会 概要
名称 :医療法人社団予防会
所在地:東京都新宿区北新宿1-13-19
クラウドファンディングページ 「感染症に苦しむ犬猫たちを救うために、感染症治療法の研究を」:https://readyfor.jp/projects/yoboukai2022
Twitter: https://twitter.com/yoboukai
Instagram : https://www.instagram.com/yoboukai0/
YouTube: https://youtu.be/Yvuio8v3nPM
編集後記
私たち人間の生活の中で、「抗生物質は効かなくなるから、必要なとき以外はできるだけ飲まない方がよい」といわれることがありますが、今回の取材で、薬剤に耐性を持った菌による感染症は犬や猫でも起こっていること、獣医療の現場では治療を困難にすることがあること、ヒトについても2050年には薬剤耐性菌による感染症が世界第一位の死因となる可能性があることを知り驚きました。
薬の効果が出ないなどの理由で、どの薬が効果的か検査を行い、使用する薬を長い期間模索し続ける治療から、生物の力を使って、感染症を引き起こしている細菌を死滅させることで感染症を治癒する「ファージセラピー」という治療法が、長い闘病で苦しんでいる犬や猫、ヒトに役立つ日がまもなくやってくるかもしれません。
今回は、新しい感染症治療の研究について、ご紹介しました。
取材協力/画像提供:医療法人社団予防会
監修:犬と猫の皮膚科動物病院 村山信雄先生
【村山信雄先生プロフィール】
犬と猫の皮膚科院長 村山信雄先生
獣医師 博士(獣医学) アジア獣医皮膚科専門医
犬と猫の皮膚科動物病院URL:https://animal-skin.jp/
<参考文献>
McKenna M. Antibiotic resistance: the last resort. Nature. 2013
O’Neill, J. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. 2016
St Cyr S, Barbee L, Workowski KA, Bachmann LH, Pham C, Schlanger K, Torrone E, Weinstock H, Kersh EN, Thorpe P. Update to CDC’s Treatment Guidelines for Gonococcal Infection, 2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2020 Dec 18;69(50):1911-1916.
Kawakami T, Shibata S, Murayama N, Nagata M, Nishifuji K, Iwasaki T, Fukata T. Antimicrobial susceptibility and methicillin resistance in Staphylococcus pseudintermedius and Staphylococcus schleiferi subsp. Coagulans isolated from dogs with pyoderma in Japan. J Vet Med Sci. 2010 Dec;72(12):1615-9.
コメント