犬は硬いものが大好き!というイメージや、歯の健康のために硬いものをかじらせよう!という思いがある方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そのことが犬たちの口の中を危険にさらしている恐れがあります。
今回は、硬いものを食べた時の犬の歯に関するトラブルをご紹介いたします。
犬の歯のトラブルに要注意
犬の歯のトラブルで一番多いものは歯周病です。歯肉炎は、歯の表面や歯と歯肉の間に食べかすや唾液中の成分、被毛などがたまった、歯垢、と呼ばれるものが引き起こします。
この歯垢、3日程で固まりいわゆる歯石、と呼ばれるものになるわけですが、歯石になってしまうとハミガキで除去することはできません。
また、それまでに歯垢を除去しようと丁寧にハミガキをしても、人とは勝手が違うため、磨き残しが発生することもあります。
また、無理にハミガキをしようとして嫌がられたり、咬まれたりすることもあります。
そのため、硬いものを咬ませることでこの歯垢除去の対策とすることがありますが、この硬いものが違うトラブルを招くことがあるのです。
それは、歯が欠けたり折れたりすり減ることが原因で起こるトラブルです。
犬にも歯周病があることを知っておきましょう
3歳以上の成犬の約80%が歯周病をもっていると言われている現在。
前述した歯垢には、細菌が含まれており、その細菌が産生する毒素などによって炎症が起きます。
歯肉が炎症を起こした状態を歯肉炎で、この時点で治療すれば炎症はおさまりますが、放置すると歯肉以外の歯周組織にも炎症が及び、これを歯周炎といいます。
歯周病とは、歯肉炎と歯周炎の総称です。
ちなみに、犬は唾液のpHの関係で虫歯菌が繁殖しにくく、虫歯にはなりにくい動物です。その一方で歯垢が歯石に代わるまでの時間は非常に短く、たまった歯垢は3日で歯石へと変わってしまいます。人間ではその時間が約20日間と言われているので、犬の歯垢や歯石対策の重要性が感じられます。
硬いおやつが原因で歯に異常が生じることも
犬の歯は、人の歯同様、その表面は哺乳動物の中で一番硬いと言われているエナメル質でおおわれています。
しかし、野生で生きていた頃ならいざ知らず、現代の犬たちの歯は、硬いおやつの代表格でもあるヒヅメや骨類を噛み砕けるほどに頑丈ではありません。
そのため、咬ませていると歯が欠けてしまったり、さらにそこから別の病気につながる可能性もあります。
どんな犬に歯のトラブルが起こりやすいか
日頃から、固いおもちゃや骨、ヒヅメ、つのなどを与えていると奥歯が折れたり、割れたりすることがあります。
すでに与えている飼い主は、ぜひ、動物病院で歯の状態を見てもらってください。
また、ケージや家具などをよく噛んでいる犬では、犬歯や切歯が折れていたり、すり減っている可能性もありますから、注意が必要です。
また、硬いものが原因のトラブルとは違いますが、歯周病の原因として、乳歯遺残というものがあります。
小型犬に非常によく見られるもので、本来は抜けるはずの乳歯が永久歯が生えた後も残ってしまっている状態をいいます。
乳歯が残ったまま永久歯が生えてくるので、歯並びが悪く、生じた隙間に歯垢がたまりやすくなります。たまった歯垢は歯周病の原因となります。
そのことが、歯のトラブルを助長させている一因となりえることがあります。
実際の診察例
硬いものを咬んで、歯が欠けたり折れてしまうことを破折(はせつ)といいます。
特に犬の場合、上あごの奥の大きな歯の破折が非常に多く、歯髄が露出して赤くみえることがあります。
そのようになると、折れた断面から細菌が入り込み、歯髄が感染を起こすことがあります。
また、歯髄で炎症を起こしていた細菌が、血管を通じて全身へ移行することもあります。全身へ巡った細菌や細菌が出す毒素が心臓や腎臓などへの障害をもたらし、死を招くこともあります。
歯ぐきの中まで歯が欠けていたり、歯の根っこの周囲に根尖周囲病巣を起こした歯は、抜歯が必要となります。
他にも、長期間硬いものを咬み続けた結果、極端に歯がすり減ってしまい、やはり歯髄が露出してしまった例もあります。
もともと歯周病に罹患していて歯茎の状態が悪い場合、何もしていなくても、もしくは柔らかいものを噛んでいても歯が抜けてしまうことがあります。歯のケアには、歯だけでなく歯茎や口腔内の環境に留意しないといけませんね。
硬いおやつが原因で起こる歯のトラブル例
良かれと思って与えたおやつが原因で起こるトラブルを知ることが、今後、的確に歯の健康を維持することに役立ちます。
うちの子に限ってこんなトラブルは起きない、ということはなく、いつ愛犬に起きてもおかしくないことを自覚し、硬いおもちゃやおやつを与えることを見直していきましょう。
歯が欠ける・すり減る
飼い主さんの中には、長時間の留守番やストレス解消などのために硬いヒヅメやガム、おもちゃなどを与えることがあります。
しかし、あまりに硬いものを咬ませていると歯が欠けてしまったり、すり減ることがあり、歯の健康を考えるとおすすめとは言えません。
もし留守番やストレス解消のために何か咬めるものを与えたい時には、適度な弾力があり、なおかつ誤食につながりにくく、知能を刺激するものを用意しましょう。
歯髄がみえる
歯髄とは、歯の断面図でいうと真ん中の部分で、簡単に言うと神経や血管がある場所です。
硬いものを齧りすぎた結果、歯が欠けたり折れたりすることで、ここまで露出してしまうことがあり、その状態を露髄といいます。
ひどい虫歯を経験したことがある人ならわかると思いますが、あの痛みを思い出してみてください。
ようは神経が露出しているわけなので、かなりの痛みでしょう。
さらには、これを放置すると細菌が露髄した部分から入り込み、歯髄炎から歯髄壊死に至り、その後、歯の根っこの強い炎症、外歯瘻、内歯瘻に進行することがあるため、注意が必要です。
歯に異常が起きたときの対処法
毎日ハミガキをしていても、犬の口の中は見にくいものです。
特に小型犬は口も小さく前歯や犬歯はまだしも、奥歯の裏側まで見ようとするのは大変です。
そのため、見た目から判断するのは難しいと言えます。
このような場合、犬の行動から判断することが望ましいでしょう。
例えば、いつもより水を飲みたがらない、食欲が落ちている、口回りを触られるのを嫌がるようになった、などです。
他にも、くしゃみが増えた、眼下や頬が腫れている気がする、といったことが見られるかもしれません。
口が以前より臭うようになった、というのも口腔内の疾患を疑うときの重要な指標です。
このような行動の変化が見られた場合には、すぐに動物病院での診察を行いましょう。
硬いおやつを与えるときの注意点
歯の健康のために最適なおやつは、適度に柔らかく、じっくり咬むことで歯垢などが取れるようなものが良いでしょう。
良く目にするグリニーズやLIONが販売している製品を参考にするといいかもしれません。
また、長時間咬めるタイプのおやつを与える時は、誤飲や誤食を防ぐために人の目のあるところで与えることが望ましいです。
注意点1.歯の健康とストレス解消は別の視点で考えましょう
繰り返しになりますが、歯の健康にとって硬いものは適していません。
しかし、ストレスが攻撃行動などに結びついている場合や、長時間の留守番によって部屋の中を荒らされてしまうことがある場合には、気が紛れるように硬く、長時間咬めるようなおもちゃやおやつを勧められることも確かです。
このような場合には、咬むことでストレス解消を目指すのではなく、頭を使って報酬を得るタイプのおもちゃを用意するといいでしょう。
注意点2.硬いおやつの誤飲に注意する
柔らかいおやつではあまり起こりませんが、硬いおやつでは塊りをそのまま飲み込んでノドに詰まらせてしまったり、咬み切れないままに飲み込んでしまい、やはり窒息状態に陥ることがあります。
例えば、骨型のガムは端の部分がゴロっと取れてしまって、そのまま飲み込んでしまう危険性があります。
このように、硬いおやつを与える際には、時々誤飲につながる状況にないことを確認する必要があります。
長時間目を離すために与えるのではなく、あくまでも歯の健康のために与えるものであることを理解しましょう。
注意点3.お腹を壊すことがあるので、数日は便の様子をよく見る
歯の健康のためのおやつは色々とありますが、お腹を壊す場合があります。
体質の問題であったり、一回に食べたおやつの量であったり原因は様々ですが、そのような場合は与えるおやつを変えてみたり、与える量を減らしてみたり、様子を見てみましょう。
注意点4.おやつのカロリーを忘れない
硬いおやつは歯に良くないのはこれまで説明した通りです。
それ以外に忘れてはいけないのは、おやつを与える場合、1日の総摂取カロリーを考えなくてはいけないということです。
カロリーの摂取過多は肥満につながり、また別の問題を引き起こしてしまいます。
注意点5.歯磨きガムは万能ではない
歯のメンテナンスをするうえで、歯磨きガムを利用している方も多いと思います。歯磨きガムは歯に付いた歯垢を落とす効果がありますが、残念ながら万能な製品ではありません。
歯と歯茎の隙間を歯周ポケットと言いますが、そこに入り込んだ汚れには歯磨きガムは効果的ではないのです。
歯周ポケットの汚れには、歯ブラシを用いた物理的な除去が一番有効です。したがって、歯磨きが出来る犬に対しては歯磨きガムに頼りすぎず、歯磨きを怠らないようにしてあげてください。
歯磨きが出来ない犬に対しては、歯磨きガムやサプリメントでメンテナンスをしてあげることも必要ですが、限界がある点に留意し、数年に1度、動物病院でしっかりと歯石取りをしてあげるとよいですね。
注意点6.無理に歯磨きをしない
歯磨きの重要性を前述しましたが、かといって無理やり歯磨きをしてはいけません。
歯ブラシを口に突っ込まれると嫌がる犬が大半なので、歯磨きには段階を踏んでいくことが重要です。まずは口に触れても嫌がらないようにすることを目標に頑張りましょう。
犬を膝の上にのせるなどして、リラックスした状態で口の周りを指で優しく触れるところから始めます。大人しく触らせてくれたらご褒美をあげましょう。これを数週間続け、「口に触られると良いことがある!」と認識させることが大切です。
次に、好みのデンタルジェルなどを用いて指で歯や歯茎のマッサージ、ガーゼやデンタルシートなどで簡単な歯磨き、など段階を踏んで慣れさせていきましょう。慣れてきたら歯ブラシに移行します。歯ブラシは、ヘッドが小さく毛先が柔らかいものがお勧めです。
最後に
歯の健康は、人間同様、長寿の秘訣でもあります。
しかし、人ではないからこそ、その維持が難しいことも確かです。
適度な硬さのおやつ、ハミガキ、口腔ケア用品など様々なものを的確に使い分け、歯の健康を維持しましょう。
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