「ヘルニア」という病気を耳にしたことがある人も多いと思います。実は皆様がイメージする「ヘルニア」という病気、正式には「椎間板ヘルニア」と言います。今回は、その椎間板ヘルニアについてご説明していきます。
高齢犬は関節系の病気に注意が必要
人間では、年齢を重ねるにつれて足腰が痛くなってくる傾向にあります。これは、関節を支える筋肉量の減少、関節内の軟骨の摩耗、関節の石灰沈着などにより関節内の骨の動きが正常時と比べて変化し、その影響で本来は刺激しないはずの神経を刺激するために起こります。
犬も同様の理由から、高齢になるにつれて関節系の病気が症状として現れてきます。
犬は7歳を過ぎるとシニアとして扱います。現在、犬の平均寿命は14歳から15歳とされていますので、生きている期間の半分ほどをシニア期として過ごします。
そのため、年齢に伴って懸念される病気とも長く付き合っていかなければなりません。病気のことをしっかり把握し、予防策と、発症してしまった時の付き合い方について理解しましょう。
ヘルニアとは
ヘルニアは、ラテン語で「飛び出る」という意味を持つ言葉です。医学的には、正しい位置から逸脱した状態を指します。
そのため、一般的にヘルニアというと、腰痛などの症状を示す疾患をイメージされますが、他にも「ヘルニア」とつく名称の疾患は多数あります。
鼠経ヘルニアは、人間で「脱腸」とも呼ばれ、下腹部の足の付け根がポッコリ膨らむ病気です。足の付け根にある鼠径部というリング状の構造から、本来腹部内にあるはずの腸が飛び出してしまい、症状を呈します。
臍ヘルニアは、へその緒があった部位の筋肉が完全に閉まらず、その部分から腸が飛び出してしまい、症状を呈します。
以上のことから、ヘルニアとは正常な部分にあるはずの物質が、異常な位置へと移動してしまったために起こるものをいいます。
椎間板ヘルニア
では、椎間板ヘルニアとはどのような病気なのでしょうか。まず、椎間板とは何なのかについてご説明します。
椎間板とは、背骨と背骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨です。
正常な犬では、背骨と背骨の間にある椎間板がクッションのような役割を果たし、背骨のスムーズな曲げ伸ばしに一役買っています。
しかし、この椎間板が様々な理由によって突出してしまうと、背骨の内部を走行している重要な神経を刺激してしまい、痛みが走ります。この状態を椎間板ヘルニアと言います。
程度が進むと、突出した椎間板物質が背骨の内部を走行している主要な神経を損傷し、歩行不全や半身不随、そして最悪の場合には急死してしまうこともあります。
犬の椎間板ヘルニアには、Ⅰ型とⅡ型があります。
椎間板内の髄核が突出し、急性に発症するものをⅠ型椎間板ヘルニアといい、加齢に伴って繊維輪が変性を起こして発症するものをⅡ型椎間板ヘルニアといいます。
椎間板ヘルニアにかかりやすい犬種
Ⅰ型椎間板ヘルニアは、ダックスフンドやウェルシュコーギー、シーズー、ビーグル、フレンチブルドッグなどが起こりやすい犬種とされています。
一方、Ⅱ型椎間板ヘルニアは犬種に関係なく、加齢とともにどのような犬種にも起こります。
【犬種別かかりやすい病気】ダックスフンド(カニンヘンダックス・ミニチュアダックス・スタンダードダックス)
椎間板ヘルニアかも?初期のサイン
初期の椎間板ヘルニアでは、痛みのみが生じます。この痛みも常時続くものではなく、ソファなどの段差から飛び降りたり、抱きかかえた際など背骨に強い圧力がかかった際に生じるものです。
その他、散歩を嫌がるようになった、いつもよりも動き回らない、などの様子は、痛みを隠している、かばっているためかもしれません。
その後、症状が進むと、ふらつき症状がみられてきます。これは、椎間板が背骨の内部を走っている主要な神経を刺激しているためで、程度が進むと麻痺へとつながっていきます。
椎間板ヘルニアになったら
椎間板ヘルニアの治療法としては、内科的治療と外科的治療があります。
内科的治療は、消炎鎮痛剤を使用して痛みをコントロールしつつ、安静に過ごさせる、というものです。「ケージレスト」といって、ケージの中で極力動き回らないように安静にさせる方法が取られます。この場合、消炎鎮痛剤は補助的なもので、どれだけ安静に保てるかが回復のカギとなります。
外科的治療では、突出した椎間板物質を摘出する手術が用いられます。突出物が神経を重度に損傷してしまうと、術後の回復があまり見込めませんので、一般的には、自力歩行はできなくなったが、自力で排尿・排泄はできる段階で手術に踏み切ることが多いです。
この段階で手術に踏み切った場合、程度によりますが麻痺の程度が改善されるケースが高いです。
椎間板ヘルニアの予防法
予防のためには、背骨に負担がかからないような生活スタイルを取り入れる必要があります。
まず重要なのは、体重管理です、標準より体重が重い場合、関節などの負担も大きくなってしまいます。また、高いところから飛び降りたり、よく滑るフローリングを走り回って急旋回したりすることでも関節に負担がかかります。住環境で配慮することとしては、床を滑らない素材に変えたり、マットを敷いたりすることが挙げられます。
また、犬を抱きかかえるとき、背骨を地面と平行な形で持ってあげることも重要です。背骨が地面と垂直な位置関係では、重力などによって負荷がかかり、痛める原因となってしまいます。同様の理由で、二本足で立ちあがる姿勢も負荷がかかります。
また、現在は関節に良いサプリメントも販売されていますので、利用すると良いでしょう。
最後に
医療の進歩により、犬の平均寿命は年々長くなっています。それは喜ばしいことですが、それに伴って高齢化による疾患が増えてきているのも事実です。まずは病気を知り、それに対する対策をしていくことで、愛犬との充実した生活が少しでも長く送れるよう願っています。
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