地震大国である日本で愛犬と暮らすために考えておくことはなんだろう。災害時の愛犬のケガや非常食の備蓄、同行避難など、獣医師として伝えたいことをお話しします。
地震大国である日本で愛犬と暮らす
私たちの暮らす日本は地震大国とも呼ばれています。世界的にみても、日本は世界中の土地のうちたったの0.28%と狭い陸地面積でありながら、マグニチュード6以上の地震の20%以上が日本で発生しているといわれています。
日本では地震が頻繁に発生するということもあり、過去の経験から災害時の避難経路の確保や救難の体系が非常に精密に整えられています。実際に、世界一の地震大国でありながら災害で亡くなった被害者の数は全世界の0.7%とかなり少ない数字となっています。
私たちの生活においても災害の備えとして自宅から最寄りの避難場所の確認や経路を把握したり、非常食の管理をしっかりと行なっている方が多いと思います。
では、愛犬の災害対策・防災対策に関してはどうでしょうか?
今回は、万が一地震が発生した際に愛犬に起こるかもしれないリスクとその対策についてお話しをしたいと思います。
地震に伴う愛犬のケガとその予防について
大きな地震が起こると大きな揺れとともに、近くのものが落下したり飛んでくることも予想されますが、このような状況は飼い主さんだけではなく愛犬についてもケガの心配があるかと思います。
実際に災害時には、犬も人と同様に室内では家具であったり、屋外では建築物からの落下物によって、骨折や関節の損傷を負うことがあります。
このようなケガに対しては、人の地震対策と同様に室内の家具の固定や住宅の耐震性を高めることで予防することができます。
また、地震の発生後に愛犬と一緒に同行避難をする際には、人だけの避難では意識していなかったようなケガが愛犬に起きる可能性があるので注意しなくてはなりません。
愛犬と一緒に避難をする際に起こりやすい3つのケガを紹介します。
①愛犬が車内で負傷する
車に愛犬を乗せて避難場所に向かう場合では、普段車に乗る機会が少ない犬が不慣れな車内でシートの隙間に足を挟んだり、体をぶつけてしまうリスクがあります。
このため、いつでも車で移動ができるように、移動用のケージやキャリーバッグを用意しておくとよいでしょう。
また、地震はいつ起こるかわかりません。常に車内を整理しておくと万が一の災害時にも安心ですね。
②愛犬が肉球をケガする
災害時に愛犬を連れて同行避難をする場合、人だけの避難と大きく異なる点として、人は靴を履き、犬は常に裸足であるということを忘れてはなりません。
犬の肉球は皮膚と同様に繊細で、ガラスの破片やガレキによって簡単に負傷してしまいます。避難の際に愛犬の肉球のケガを避けるためにも、家の中でガラスが飛散しないようにシートを貼るなど普段から対策を行なっておくことも重要です。
また、避難中は飼い主さんも気が動転して慌ててしまう状況も考えられますが、冷静になって道路にガラスやガレキなど破片や危険なものが落ちていないかなど、道路状況を確認しながら移動することが必要です。
愛犬の足裏のケガに備えて洗浄・消毒できるアイテムを用意しておく
愛犬を連れて避難をしなければならない状況では、慎重に見極めたり判断をするということは難しいことと思います。実際には愛犬の肉球のケガを心配するよりも、一刻も早く避難場所へと向かうことの方が大切になってくることでしょう。
このため、多少のケガは仕方がないと考えて、安全な場所にたどり着いた後に傷を消毒できるように、非常用の持ち物の中に愛犬用に洗浄や消毒ができるように消毒液やバンテージなどを用意しておくことが重要だと私は考えています。
③愛犬がアスファルトで火傷/暑さで熱中症を起こす
もし、真夏に地震が発生した場合、炎天下での同行避難は人も犬も常に熱中症のリスクがあります。また、ときに50℃を超えることもあるアスファルトを歩いて避難する場合は、愛犬の肉球に火傷を負う可能性があります。小型犬など抱き上げて移動ができる場合は、無理のない範囲で抱っこをした状態での避難も考えましょう。
動物病院では、一般的に「夏のお散歩は暑い時間帯を避けて、適度に水分を摂りましょうね」と飼い主さんにお伝えしますが、災害時にはそうもいきませんので、気温の高い中で移動をする場合は、10分移動したら5分は日陰で休むことを心がけるようにしてください。
愛犬の熱中症の対策と対処については災害時だけでなく平常時と同じ対応となります。犬の熱中症については、下記の記事をご覧ください。
関連記事:【獣医師監修】犬の熱中症は死亡や後遺症の恐れも!対策ともしもの対処法
愛犬との同行避難、避難所での生活について
大きな災害によって生活インフラに支障が出ると、避難所での一時的な生活が強いられることになります。避難所では基本的にペットホテルのようなペットのために整理された生活空間はありませんので、複数の犬猫が同じ部屋で過ごすことになります(※避難所によって環境には差があるので一概にはいえません)。
不特定多数の犬猫が集まる場所で共同の生活を行うことは、ケンカなどによって負傷するリスクのほかに、感染症が蔓延するリスクも少なからず存在します。このため、国で定められている狂犬病予防注射の接種はもちろんのこと、室内飼いなどでたとえ感染症のリスクのない生活をしていても、非常時に備える意味でも、混合ワクチン接種はしっかりと定期的に実施しましょう。
また、避難所によってはワクチンの接種証明を求められることもありますので、ワクチン接種の証明書は携帯しやすい場所に保管するようにしましょう。
また、避難所では狭いスペースで人と動物が生活することになるため、無駄吠えや噛みつきの抑制、トイレなど最低限のしつけは行なっておくようにしましょう。
災害用に備蓄をしておく愛犬の非常食について
過去の災害では「避難時にいつもと違うペットフードを食べなくて困った」という被災者の経験談を聞くことがあります。このようなトラブルは犬よりも食の細い猫でよくある話ですが、犬でも普段と異なる食事によって胃腸の調子を崩すなどのトラブルを起こすことは容易に考えられます。
このため、災害時の準備として、人用の非常食を備蓄するのと同様に、愛犬のための非常用フードも備蓄をしておくことが重要です。
しかし、万が一のためにと大量にドッグフードを蓄えてしまうと、保管している期間にフードの劣化が起こり、必要な栄養分が失われてしまうことも考えなければいけません。
備蓄用のフードは消費期限が絶対オーバーしないように、一週間程度の蓄えをすることをおすすめします。
犬の非常食の備蓄で難しいのが、普段から一般では手に入れづらい療法食を与えている場合です。避難所でも支援物資としてペットフードを手に入れることはできますが、療法食はどうしても供給量が少なくなりがちです。
このため、普段から多めに蓄えておくようにしている方もいらっしゃると思いますが、療法食はビタミンなどの栄養成分のバランスが繊細に構成されているため、一般食よりも劣化に弱いことが多いことから、フードの長期間の保管にはより一層注意を払う必要があります。
また、一概にいえることではありませんが、2016年の熊本地震で獣医師として支援に赴いた先生の話では、支援物資のペットフードが十分すぎるくらいに届いており、療法食も各種揃っていたそうです。
愛犬の食に関する好き嫌いが激しく、手作り食しか食べてくれないというような状況などで日頃のご飯が避難先で入手できないという場合以外は、過去の事例からみる限りでは備蓄は一週間ほどの蓄えで大丈夫なのではないかと私は考えています。
また、愛犬にアレルギーや持病がある場合などを除いては、偏食をさせないことも地震の備えになるということを知っておいていただければと思います。
愛犬のために災害対策の公的なガイドラインに目を通しておこう
ここまで獣医師として震災時の愛犬の避難についてお話ししてきましたが、ペットの災害対策のガイドラインについては環境省が出しているものがありますので、実際に災害が生じた時に必要となる手続きや書類について、是非確認していただけるとよいと思います。
参考:環境省「人とペットの災害対策ガイドライン」 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3002.html
また、ペットの災害時の避難や応急処置についての講座も日本各地で開かれていますので、興味のある方はぜひ調べてみてください。
今回は、地震から愛犬の命を守るために飼い主として考えておきたいことについてご紹介しました。
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