【ペット災害危機管理士レポート】箱根町のペット同行避難の現状〜事例を踏まえて〜

救急・防災

7月3日から続いている令和2年7月豪雨により犠牲となられた方々に哀悼の意を表すると共に、被災された方々に謹んでお見舞い申し上げます。
災害は繰り返し起こるといわれております。ここ数年でも大規模な水災害が発生しており、ここだけは大丈夫という場所は全国には無いと言ってよいでしょう。本日は、私の居住する箱根町で発生した水害の被害状況と箱根町の考えるペット同行避難のお話をさせて頂きます。

昨年発生した令和元年東日本台風(台風19号)

これは昨年2019年10月12日に東日本に大な被害をもたらした台風で、24時間雨量の記録を作った箱根町での当時の状況です。

皆さんの記憶にも新しいと思いますが、昨年秋、台風15号と台風19号が関東地方を襲いました。令和元年房総半島台風と命名された15号は千葉県に甚大な被害をもたらした風台風でした。

その約1か月後の10月12日令和元年東日本台風と命名された台風19号は大型で強い勢力を保ったまま伊豆半島に上陸し、広い範囲に大雨と暴風をもたらしました。この大雨により、気象庁は台風上陸前に1都12県に大雨特別警報を発表しました。

1週間前に噴火レベルが1に下がり「これから挽回だ!」と息巻いていた箱根町は、降り始めからの72時間降水量が1,000ミリを超え、10月12日の24時間降水量も全国歴代1位となる922.5ミリを観測しました。

東日本を中心に土砂災害や多摩川、千曲川、阿武隈川などの流域面積の広い河川の氾濫が発生したことで、人的被害、家屋の浸水、停電、断水が相次ぐ甚大な被害が出ました。国土交通省によると、浸水面積は西日本豪雨(平成30年7月豪雨)の約1万8,500ヘクタールを上回り3万5,000ヘクタールでした

東日本を中心に死者91人 負傷者376人 行方不明者3人 住家の全壊3,273棟、半壊28,306棟、一部破損35,437棟、床上浸水7,666棟、床下浸水21,890棟公共建物の被害187棟、その他の非住家被害13,769棟。

日本政府はこの台風の被害に対し、激甚災害、特定非常災害(台風としては初)大規模災害復興法の非常災害(2例目)の適用を行った。また、災害救助法適用自治体は2019年11月1日時点で14都県の390市区町村であり、東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)を超えて過去最大の適用となりました。

箱根町内の被害

今回の豪雨により、町内十数か所で土砂崩れが発生しましたが、中でも国道138号に接する自然斜面において、高さ約100m、斜面長180m、推定土量約3万立方メートルの土砂が国道に崩落する災害が発生しました。この国道138号線は箱根宮ノ下から国道1号線と別れ御殿場市の東名高速と接続し山梨県まで抜ける町内の主要幹線道です。小田原と芦ノ湖の桃源台を結ぶ路線バスのルートで、仙石原地区在住4,000人は小田原に向かう足を奪われに大きな影響が出ました。

町内各所で土砂崩れは、温泉配管の損傷や流出によって供給が停止しました。温泉供給が停止した宿泊施設計99軒に影響がでました。供給が止まったままの温泉施設では、温泉成分のない沸かし湯の利用や、他の施設から温泉の提供を受けるなど、苦しい営業を強いられました。同じく土砂流出の被害を受け、立ち入りが禁止されていた仙石原の「ススキ草原」は入り口から約150メートルから先は立ち入ることができませんでした。

この様に十数か所の土砂災害では、土砂の除去や安全確認が完了しないと通行が出来ず 長期間、迂回するしかありませんでした。

土砂災害とは

箱根町は、町土の90%山岳、河川、湖沼で、急峻な山並みが続いています。これらの山々は火山の噴出物でできている上、噴気の影響で変質し、大変崩れやすくなっています。年間の降水量が2000mmの約半分が24時間で降った事を考えれば今回の台風は土砂災害が数多く発生してしまう災害だといえます。

また、大正12年の関東地震や昭和5年の北伊豆地震では、箱根全山で崩壊が発生しました。

がけ崩れの前兆

要注意現象

  • がけに亀裂がある
  • がけから小石がパラパラと落ちてくる
  • がけから急に水が涌いてくる

土石流の前兆

要注意現象

  • 山鳴りや立木がさける音がする
  • 川が濁り、流木が混じり始める
  • 雨が降り続いているにもかかわらず川の水位が急激に下がる

地すべりの前兆

要注意現象

  • 地面にひび割れができている
  • 地面の一部が陥没したり、隆起している
  • 池や井戸の水が急に減ったり、濁ったりしている

大雨や地震の時には、がけや谷から離れ、早めに避難するように心がけましょう。また、日頃から自宅近くのがけの様子を観察しておくと、危険を察知しやすくなります。

水害

周囲の山々から雨水が流れ込み、芦ノ湖の水位上昇し氾濫しました。箱根海賊船 元箱根港も水没、東京-箱根駅伝のゴール地点の園地が水没、周辺園地や多くのボート屋さんも水没しました。

また、水位上昇に伴い、湖尻にある水門の開放が行われ、芦ノ湖を水源とする2級河川、早川が増水し周辺集落の床上浸水を引き起こしました。浸水被害を受けた多くの店舗では2階への垂直避難をペットと一緒に行ったそうです。

後日、この早川水系(芦ノ湖、須雲川を含む)で想定される「最大級の洪水予測図(ハザードマップ)」が、県から公表されました。浸水深(浸水時の深さ)は箱根町仙石原のイタリ池付近で14.6メートルが見込まれ、仙石原周辺では、おおむね5メートル前後の浸水が見込まれています。

浸水が24時間以上解消しない恐れがある地域も点在しているので県は「浸水が深い地域は2階への『垂直避難』では危険で、避難所などへ向かう『水平避難』が必要になる」と指摘。避難先や避難経路の検討などに生かすよう呼び掛けています。

今回発生した町内の災害内容です。

内水氾濫

仙石原内水氾濫

山体の雨水吸収量がオーバーし側溝より溢れ道路が川の役割となってしまった為、住居への床上床下浸水発生

外水氾濫

芦ノ湖の氾濫

芦ノ湖の水位上昇 氾濫
早川の氾濫

土砂災害

崖崩れで半壊の宿

土砂崩れ 国道、県道、鉄道
崖崩れ 建物

町役場の避難所開設とペット対応について

*箱根町役場 総務部 総務防災課 防災対策室 取材

町内に28の施設、学校が避難所として指定されています。

通常、大雨警報が発令された際、まず町の施設5か所の避難所を役場の職員が開設します。

開設の案内は町の広報にて伝えられメールにも配信されます(登録が必要)

実は避難行動をとる方は住民以外に観光客、特に外国人も多いと想定し、その対応も行っております。他には無い国際的な観光地の特性と言えます。

そして箱根町はいち早く避難所にコロナ対策を講じています。

というのも緊急事態宣言が発出された4月に大雨警報が発令される可能性が高まった際に避難所内での距離を取ることやマスク、手指の消毒といったマニュアルを作成しました。このことによりメディアでも取り上げられ取材が多かったそうです。

そして、各避難所へ開設のために向かう職員には画像の様なバッグを持ちます。

誰が担当になっても同じ動きが出来る様、その施設の開錠から設置まで詳細に記載されているマニュアルがあり、避難所の平準化を図っています。

この台風が過ぎた日からペット同行避難に関して、自治体の対応が分かれていたと多くの報道がされていました。

箱根町内の犬の登録数は660頭ほどあり、ペット同伴宿が10軒ほどあります。繁忙期には1軒当り10頭が滞在していると仮定して約100頭、日帰り客の同伴は推定200頭、猫は登録がないので推定ですが100頭、合わせると約1,000頭強のペットが町内で被災することが予測されています。

しかし、3年前までペットとの避難に関して役場としての指針はありませんでしたが、ここから大きく動き出します。以下、箱根町としてのペット同行避難に関する対応です。

「災害時におけるペット対応については、以前より議論されていましたが、当町周辺自治体と情報交換、平成 28 年 4 月の熊本地震をきっかけに、行政においてペット避難について備える必要が不可欠である事を認識し、箱根町として出来る事は何かと会合を重ねました。そこで防災訓練の中にペット同伴避難を訓練形式で行い、その参加者に対し災害時のペット対応(対策)について周知できると考え、平成 28 年度総合防災訓練(箱根町は各自治会において各個訓練を実施していますが、中央会場を設け消防・警察・自衛隊・各企業等による総合訓練を実施しております)の中にペット同行避難訓練を組み込みました。」

「訓練の内容としては、避難者の中にペット同行者がいるという想定のもと、ペットの受付、ペット用スペースの確保、案内という流れで実施。その中で災害時にはペットを守るためにまず自分の安全を確保すること(自助)、飼い主はペット用の食料 やトイレ等の備えをすること、お互いに協力すること(共助)が必要であると説明、お願いを致しました。 今後もペットに関する避難時携行品指導や同行避難訓練を継続して実施し、住民はもとよりペット連れの観光客の皆様に対し安心してお越し頂ける様にしたいと考えております。」

行政が動き出したこの時より、災害時におけるペット救護に関する連携の輪が完成したと言えるでしょう。

そして現在、同行避難に関して町としての指針を基に環境課がマニュアルを作成、先ほどの避難所開設セットの中に入れて対応しています。

残念ながら、同伴避難ではありませんが、雨露がしのげる室内の1階部分にケージに入れて避難することが可能となっており、飼養者にとっても安心の避難といえるでしょう。そしてHPにもこの様に飼養者向けに準備から同行避難に対するガイドを掲載しています。

この台風の際には先の避難所の他に、学校、自治会館等が5か所開設され住民の安全を守りました。台風が過ぎた13日昼には役場本庁舎を除き全ての避難所が閉鎖されました。これだけの雨量と土砂災害が発生したにも関わらず奇跡的に死者0人でした。

その陰には役場職員、警察、消防、消防団、地元建設業者、各自治会役員が連携を取り、住民、観光客を守るために暴風雨の中、警備や救助に出ていたことはあまり知られていません。

復旧

発災から2か月たった12月27日、土砂崩れで通行出来なかった国道138号線がバイパスを作ることで仮復旧し開通しました。これは年末年始に向けて観光業にこれ以上の打撃を与えてはいけないと建設関連企業が奮起し、断崖地にバイパスを短期間で作るといった偉業を成し遂げました。

そして7月23日、この台風の災害復旧の総仕上げともいえる箱根登山鉄道が再開いたしました。被害状況からみても1年は無理だねと皆で言っていましたが、マンパワーと企業力により工事が進み、年が明け早々に7月末には開業するといった情報が入りました。

今年は雪も少なく順調に復旧工事が進みました。しかし、そこにコロナの障害です。この日を待ちわびている町民、観光客の為に遅らせるわけにはいかないと厳しい環境下、昼夜を通して作業が続き、ついに7月9日全線での試運転が開始され、23日開業しました。

東日本大震災の際、三陸鉄道が復旧した時に地元の方々が喜んでいる姿が重なります。

最後に

この様に行政や地域は「何か(誰か)の為に」という大義があり災害への対処がなされます。ここで、住民自らが災害をどの様に考えているかは大変重要になります。

どの災害も同じですが時間やタイミングが生死を分ける場面は多々発生します。5年前の噴火は、たまたまそれ以上の大きな噴火は起こらなかった。台風に関しても偶然が重なり死者がでなかったに過ぎないという事です。

どれだけ避難指示や特別警報を発しても町や行政がハザードマップを作成しても自分がどの様な避難行動を起こすかを日常から考えておかないと災害に巻き込まれる可能性は数段高くなるということです。

災害時、人は都合の良い判断をしがちです。「自分は大丈夫」、「そこまではならない」と。そのような心の動きを正常性バイアス(正常性の偏見)と言います。

今回の噴火被害ゼロ、台風死者ゼロは箱根町にとってかなり危険な状況になったと言えます。なぜでしょうか?この町は大丈夫!安心な町だ!と言った住民の慢心を助長する事になるのです。このことは他の被害が少なかった地域にも言えます。冒頭に言いましたが災害はどこで発生し、被害が出てもおかしくないのが現状です。

皆さんのお住まいや職場の土地で起こりうる災害の特性を知り、避難場所への移動方法や、ペットとの同行避難の可否の確認等、防災や減災に向けた準備と行動を今一度見直し、その意識を皆(家族や職場、地域)で共有する事が重要であると思います。

東日本大震災の時に多く使われた言葉があります。「想定外」です。

これからの自然災害は人智を超えると間違いなく言えます。

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鈴木清隆

鈴木清隆

一般社団法人全日本動物専門教育協会認定 ペット災害危機管理士Ⓡ1級講師 神奈川県箱根町在住で、箱根町にてペットと泊まれる宿を経営していた経験によりペットと災害についての啓蒙活動を行っている。 また、防災士の資格も所有しており、地元である箱根町消防団にも所属している防災のスペシャリストである。

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