犬を家族に迎える方法はペットショップやブリーダーから子犬を購入する方法だけではありません。さまざまな事情で保護された子犬や成犬である「保護犬」を迎える選択肢もあります。里親として保護犬を家族に迎える際の注意点をお話しします。
犬を迎える方法には「保護犬」を迎える選択肢がある
犬を家族に迎えようと思ったとき、日本ではペットショップやブリーダーから子犬を購入する人が多いですが、近年は「保護犬の里親になりたい!」「家族お迎えするなら保護犬を選びたい!」という想いのある方も増えてきているといわれています。
さまざまな事情を抱えて保健所や愛護センター、保護団体、保護施設(シェルター)で保護されている犬たちは日本にたくさんいて、なかには殺処分される犬たちもいます。
犬の殺処分数の変化
環境省が公開している日本国内の犬の殺処分数は、
平成16年度(2004年)では155,870頭
令和元年(2019年)では、5,635頭
令和2年度(2020年)では、4,059頭
が1年の間に殺処分されています。この数字を見る限りでは、16年の間に犬の殺処分数は大きく減少していることがわかります。(※環境省の資料より)
日本国内において犬が殺処分される頭数が減ってきている理由として、動物愛護法の改正によって、犬が命を終えるまで適切に飼養する「終生飼養」の責任が明確になったことと、虐待や遺棄の禁止の罰則が強化されたこと、動物愛護団体の啓発活動なども関係しているといわれていますが、年間に殺処分される犬はゼロではありません。
各都道府県でも”殺処分ゼロ”を目指す取り組みが行われていますが、実現ができていない状況が続いています。
犬の保護・譲渡を行う活動が犬たちの命を救っている
殺処分される犬が減るということは、各地域の動物愛護センターから迷子になった犬たちが飼い主の元に返還されたり、愛護センターから新しい飼い主さんへ譲渡されたり、日本全国で活動している愛護団体によるレスキューや保護、譲渡会などの活動によって、多くの犬の命が救われているということでもあります。
犬を迎える方法は子犬を購入するだけではありません。ペットショップに並んだかわいい子犬や信頼できるブリーダーの子犬を家族に迎えるという方法だけでなく、「保護犬を選ぶ」ということも犬と一緒に暮らす選択肢の1つです。
保護犬を家族に迎える方法とそれぞれの注意点
保護犬を家族に迎えるにはいくつか方法があります。ここからは、犬を迎える方法と注意点をそれぞれご紹介していきます。
①保健所や動物愛護センターから保護犬を迎える
まず最初に、保健所や動物愛護センターから保護犬を譲り受ける方法というがあります。
ただし、突然愛護センターに行ってすぐに犬を連れて帰るということはできません。
保護犬のお迎えを検討している場合、最初に、愛護センターで行われている講習会や飼い方教室、事前説明などに参加します。その後、譲渡を受ける条件をクリアした方が譲渡会に参加したり候補のワンちゃんとお見合いをして、説明を受けた上で手続きを行うのが一般的です。
東京都動物愛護相談センターの場合
東京都から保護犬を迎える例をご紹介します。
<飼い主になるための条件をクリアすること>
東京都の動物愛護相談センターから犬を迎え入れる場合には、以下の条件をクリアする必要があります。
- 原則、都内にお住まいで20歳以上60歳以下の方
- 現在、犬や猫を飼育していない方
- 家族に動物に対するアレルギーを持っている方がいない方
- 飼うことを家族全員が賛成している方
- 最期まで責任を持って飼い続けることができる方
- 経済的、時間的に余裕がある方
- 動物に不妊去勢手術による繁殖制限措置を確実に実施できる方
- 集合住宅・賃貸住宅の場合は、規約等で動物の飼育が許されている方
- 東京都動物愛護相談センター主催の譲渡事前講習会を受講している方
<譲渡対象動物の確認(募集中の犬の確認>
里親さんを募集している犬がホームページで公開されているので、募集中の犬を確認して動物愛護相談センターに問い合わせをします。
ワンニャンとうきょう 譲渡動物情報:https://shuyojoho.metro.tokyo.lg.jp/
<譲渡事前講習会の予約と受講をする>
東京都内の動物愛護相談センターで行われている譲渡事前講習会を事前予約し受講します。このとき、本人確認を行うための身分証や賃貸住宅の場合は契約書などの持参が必要です。(犬を迎える住宅環境が整っているかの確認がある)
<譲渡講習会の受講/お見合いと説明を受ける>
犬の譲渡を受ける条件をクリアし、事前講習会を受講した人を対象に、譲渡の候補となる動物がいる場合に譲渡講習会(お見合い/適切な飼い方の説明)が開催されます。
この2回目の講習会である、譲渡講習会を受講した上で、書面の手続きが行われ譲渡されることとなります。
東京都では「ワンニャンとうきょう」というサイトが開設されていて、動物愛護相談センターやボランティア団体(保護団体)で保護されている犬や猫の譲渡を希望する人に向けて情報を発信しているので、検討中の方は参考にしてみてください。
(引用参考:東京都動物愛護相談センター ワンニャンとうきょう)
https://wannyan.metro.tokyo.lg.jp/
②保護団体から犬を譲り受ける
民間の保護団体/動物愛護団体では、それぞれ保護活動を行っています。インターネットで検索すると、たくさんの保護団体が出てくるはずです。
保護団体によってそれぞれ譲渡条件を設けているので、条件に合った団体を見つけて直接問合せを行ったり、譲渡会に参加してみましょう。
希望の犬種などがある場合は、団体のホームページやSNSに掲載されている犬の情報を探すことができます。
住居環境などの譲渡条件をクリアし、候補となるコが決まったら犬を譲り受ける前にトライアル期間(マッチング)として、実際に一緒に過ごしてみる「お試し期間」を設けている団体が一般的です。
その後、正式譲渡となりますが、譲り受ける側が飼い主としての責任を果たしてもらうためや保護団体が犬の保護活動を継続するために、譲渡の際に譲渡費用がかかる場合もあります。(※団体によって譲渡の流れが異なります。)
保護団体は、再び犬が捨てられたり適切な飼養をされずに不幸にならないために譲渡条件を厳しく設定しているところが多いです。
保護団体には、ボランティア団体、NPO団体、一般社団法人、公益財団法人など日本全国に多数あるので、その団体がどんな活動をしているのか、活動の実態があるのか、譲渡後のサポートは受けられるのかなどを事前に確認することをおすすめします。
③動物病院での里親募集
心ない人が動物病院に置いていった犬や迷子犬、交通事故に遭って身元がわからない犬などを止むを得ず引き取る保護活動や治療を行っている動物病院で譲渡会(里親会)を開催していたり病院内に里親情報が掲示されている場合もあります。
④親戚や知人から譲り受ける
親戚や知人などの飼い犬が、やむを得ない事情でともに暮らすことができなくなった場合などでは、その犬を譲り受けるというケースがあるでしょう。
⑤個人から譲り受ける
民間の保護団体でなく、個人で里親さんを探している人を「里親募集サイト」などでみつけることもできます。
ただし、インターネットは相手が見えない部分もあり、引き取ってから大きな病気が判明する、高額な譲渡料金やこれまでにかかったとされる多額の医療費や手術代を請求される、実際には掲載されている写真とは違う犬を譲渡される、お金を払った後で連絡が取れなくなるなど、保護犬を利用した詐欺など悪質なケースもあるようです。
このため、インターネットを通じた個人同士での里親探しの際は注意が必要です。保護犬を譲り受けた後のサポートなどを考えると、個人でのやりとりは不安な面も多いです。
保護犬を家族に迎え入れる際の注意点
「保護犬」といっても、全ての犬が野良犬や迷子犬、捨てられた犬ではありません。1頭1頭さまざまな事情を抱えた犬たちです。
例えば、
- 保健所や愛護センターに持ち込まれた犬
- 保護団体や個人で保護されている犬
- やむを得ぬ事情で飼い主が飼育できなくなった犬
またなかには、暮らし方や医療面でケアが必要な犬もいます。
- 多頭飼育崩壊やブリーダー崩壊現場からレスキューされた犬
- 繁殖引退犬
- 高齢犬
- 持病のある犬
- 障害のある犬
- 虐待されていた犬、心に傷を負っている犬
- 正しい飼育やしつけをされなかった成犬
どの犬も1頭1頭の事情は異なります。このため、そのコの抱える事情を受け入れて里親になる心構えが必要です。
もし保護犬をお迎えした後に問題や悩みが出てきた場合は、そのままにせず、必ず譲渡を受けた動物愛護団体や動物愛護センターに相談をしましょう。
成犬は子犬よりもしつけに時間がかかる
保護犬として里親の募集を行っている犬は成犬であることが多く、性格や生活スタイルがその犬なりにすでに出来上がっている場合、里親として家族に犬を迎え入れた際に、基本的なしつけから教えてあげることが必要なケースもあります。
なかには、お座りや待て、フセ、お散歩の仕方、お留守番、トイレといった基本的なしつけが全てできている犬もいますが、子犬から行うしつけよりも、成犬のしつけには時間がかかることもあるので、諦めず気長に、そして根気強く続けることが大切です。
その犬の健康状態と特徴を確認しておくこと
保護犬と暮らすために知っておくべきことの1つに、譲渡前にその犬の特徴を確認しておくことがあります。
なかには継続的な治療やケアが必要であったり、人や音が怖い、犬が苦手など特定の状況が苦手などトラウマを抱えている犬であったり精神的に問題を抱えている犬もいます。
そのコがどのような状況で保護された犬なのか、その後現在までどんな暮らしをしてきたのかといった経緯から、健康状態やワクチンの接種状況、避妊去勢の有無、わかっている犬の性格や苦手なことがあるかどうかなどを事前に詳しく聞いておきましょう。
特に、健康状態については、譲渡前に持病はあるか、もし持病がある場合はどのようなケアが必要になるかなどを確認しておくことで、お世話にかかる費用がどれくらいになるのかの目安にもなります。
※候補となっている犬の様子や経緯をよく把握していない団体や個人から保護犬を譲り受けることは、後のトラブルの原因となる可能性があるので注意してください!
その犬の個性として温かく見守ってあげることも必要
保護犬を家族に迎えることになったら、そのコの抱えてきた事情を全て受け入れて、1つの個性として温かく見守ってあげてください。
人間もある日突然、これまでの生活環境がガラッと変わったとしたら、新しい生活に慣れるまでに時間がかかるのと同じです。
保護犬を迎え入れたら少しでも早く距離を縮めたい気持ちから、体をたくさん触ろうとするなど、しつこく構おうとすると犬が疲れてしまったり、ストレスから体調を崩すことも考えられます。
家に到着して新しい環境になれるまでの期間はそっとしておいてあげることも必要です。家族になった愛犬のペースに合わせて、見守りながら少しずつ仲良くなることで、徐々にお互いの信頼関係を築くことができるでしょう。
保護犬迎える選択肢が広まることが殺処分ゼロに繋がっていく
今回は、これから保護犬を家族にお迎えしようと考えている方へ、保護犬を里親として迎える方法と注意点をご紹介しました。
日本では犬を家族に迎える際に子犬から迎えるケースが多いですが、欧米ではシェルターなどの保護施設から成犬を迎えるケースも多いです。
筆者は以前、ニューヨークのASPCA(アメリカ動物虐待防止協会)という団体のシェルター施設を視察したことがあります。ビル全体がASPCAの施設なのですが、実際に犬たちの様子を見て感じたことは、日本の動物愛護相談センターと比べると、施設のビルが街に溶け込んでいて、シェルター施設とは思えないほどとても明るく、臭いも全くなく非常に清潔な印象を受けました。
施設内の犬達は、ガラス張りで1頭ずつ様子が見える広いスペースが与えられていて、獣医療はもちろん、犬のトレーニングや心のケアも行き届いた施設です。
適切な治療やお手入れを受けることで体力を回復し、人間不信で全く触ることもできなかった犬が施設で過ごし心のケアを受けて、犬が閉じてしまった心を開くことで里親さんと出会う可能性が広がることは素晴らしいことだと感じました。
日本でも「保護犬を迎える選択肢がある」という認識が多くの方に広がっていくことが、国内の犬の殺処分ゼロの実現に繋がっていくはずだと信じています。
これまでドッグパッドで紹介した保護犬関連の記事一覧
これまで、ドッグパッドでは、保護犬や里親に関する記事をいくつかご紹介してきました。これから保護犬を迎えようと思われている方は参考になさってください。
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